化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社) 2002年6月号

                         ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                            須藤正夫
 
 

 
 シェル PTT10万トン設備カナダに建設
 2010年には世界で100万トン市場

 
 PTTはジオール成分が1,3-プロパンジオール(以下PDOと略)で,PETに代表される飽和ポリエステル樹脂の一種である。PDOは数多くの製法が検討されたが,現在,アクロレイン法とエチレンオキサイド法の設備が稼働中である。
 PDOはPTTの原料のみならず,各種飽和ポリエステルの改質,新規ポリウレタン原料,さらにファインケミカルなど広範分野で需要を形成する可能性がある。
 
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 表1 1.3-プロパンジオールの製法と概算コスト(出典:マルチクライアント調査「1,3-PDO,PTTの製造,用途および経済性」より作成;シーエムシー出版,2000年8月完了)


 
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 表2 PDOの用途
(出典:「2000年版ポリエステル樹脂総合分析」シーエムシー出版2000.10)


 
 PTTは市場開拓が先行しているシェル ケミカルズが2010年に世界で100万トン(*)の需要を見込む程のの新規大型ポリマーである(*化学工業日報02.3.29,石油化学新報02.4.3など)。
 同社は年産73,000トンのEO法PDO設備が1999年末完成した。PTTは米国内で年産20,000トンの設備が稼働中で,さらにカナダのSGF Chimeと折半出資で「PTTPOLY・CANADA」を設立,カナダのモントリオール郊外に10万トン設備を新設する計画で2002年,着工,2003年末操業を開始する予定である。
 Degussaはアクロレイン法でPDOを企業化,現在,ドイツに建設した年産9,000トン設備が稼動しておりデュポンに供給している。
 デュポンはPDOバイオ技術で開発しており,2000年8月,英国のテート・アンド・ライル・シトリック・アシッドと共同開発に関する契約を締結,2003年に商業プラントを建設する予定である。
 PTTは現在,年産12,000トン設備で生産しているが第1期5万トン,将来20万トンまで増設する構想を持っている。
 日本では旭化成が1999年に年産1,000トンのPTT繊維設備が完成,「ソロ」のブランドで販売をしている。
 同社は2002年5月,デュポンと提携し,PTT繊維を開発していた帝人と折半出資で合弁会社「ソロテックス」を設立した。販売は2006年に1万トン体制を確立することを目標としている。
 当面は親会社に生産を委託するが,将来は重合から紡糸まで一貫生産構想を持っている。
 東レは2001年5月,デュポンとPTT繊維の技術ライセンスおよび製造販売に関する包括契約を締結,企業化準備中である。
 
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 表3 PDO,PTTの生産計画 (単位:トン)(出典:「新しい機能性モノマーの市場展望」を加筆修正;2002.3シーエムシー・リサーチ刊)


 
 PTTの用途開拓は非衣料用繊維が先行
 
 2001年のPTT生産量はシェルとデュポンの両社合わせ1~2万トン,旭化成はPTT繊維を300トン生産したと見られる。
 PTT繊維は伸長回復力や,耐汚染性,無黄変性などがPETやナイロンより優れており,現在シェル,デュポンともほぼ100%がカーペットなど非衣料用繊維で占めている。
 カーペット用では今後もナイロンなどを代替し,需要を拡大する事が予想されるが,衣料用繊維としても風合い,着ごごちの良さが評価されており,繊維分野で大型市場を形成する可能性が高い。
 
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 表4 PTT繊維とPET繊維の比較
 (出典:「化学工業時報」99.11.5 より作成)


 
 有望な成形材料市場
 
 PTTは繊維用が先行しているが,成形材料としても成形性と物性とも優れており,大きな可能性を秘めている。
 PETは優れた性能を持っているが,成形性が悪く,大きな市場を形成出来なかった。これに対して,PTTはPETに近い優れた性能を持ちながら,PBTに匹敵する成形加工を有している。
 さらに,ガラス繊維補強効果はPET,PBT,ナイロンなど他の結晶性樹脂と比較すると最も優れている。 曲げ弾性率を例に取り,未充填グレードとガラス繊維30%強化グレード補強効果比較を表5に示す。
 
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 表5 曲げ弾性率とその変化 (出典:「工業材料」98.1,98.2より作成)


 
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 表6 PTTと競合樹脂との物性比較(未充填) (出典:「工業材料」98.1) 注)*dry


 
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 表7 PTTと競合樹脂の物性比較(充填)  (出典:「工業材料」98.2)
   注1) 各樹脂とも30%w Glass  注2) *dry


 
 大型設備稼働後、PET価格に接近か
 
 PTTが「2010年には世界で100万トンの大型市場を形成する」と期待されている背景には優れた性能とともに低廉な価格で供給が可能となることも大きな理由である。
 「シェルはPTTを0.92$/lb~1.25$/lbで供給する」(「工業材料」99.3),原料のPDOは1,4-BDOとの比較で「大差はなくなる」(化学工業日報1999.12.16)と報じられている。一般紙でも「3GT(PTT)価格はナイロン原料(200円/kg)より2~3割安くなり,高品質で低価格な【夢の糸】ができる」(朝日2000.4.13)と報道されている。
 シーエムシー出版が2000年8月に実施したPDOとPTTに関する調査・分析でもPDO価格はEO法,バイオ法とも100円/kg台で1.4-BDOに接近,PTTも100円/kg台で供給可能と分析している。
 しかし,PDO,PTTとも大型設備がフル稼働することが前提である。

 参考文献
①「新しい機能性モノマーの市場展望」  2002.3 シーエムシー・リサーチ刊
②「2000年版ポリエステル樹脂総合分析」  2000.10 シーエムシー出版刊
④「1,3-PDO,PTTの製造,用途および経済性」  2000.8 シーエムシー出版
⑤「1,3-PDOを原料とするポリウレタン新技術の展開」  2001.3 シーエムシー出版
⑥「工業材料」98.1,98.2 日刊工業新聞社

               ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                  須藤正夫 (すどうまさお)