化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社)2008年12月号に掲載

                             (有)シーエムシ-・リサーチ
                               須藤正夫

はじめに
 
 化学品中,ポリウレタン原料であるTDI(トリレンジイソシアネート)は輸出比率が最も高く,2007年で出荷量の75%を占め,MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)も50%を越えている。他の樹脂原料で輸出比率が高いのはスチレンモノマー45%,ビスフェノールA28%,塩ビモノマー26%などだが,イソシアネート類が突出している。
 クルードMDIとピュアMDIを合わせた輸出量は2000年の11万6,000トンから2006年は21万7,000トンに拡大,2007年は19万4,000トンに減少した。中国への輸出が大幅に増加したが,中国や欧米企業の大型設備建設が進み,生産能力が大幅に拡大したこと減少の理由である。他のアジア諸国への輸出は拡大しているが,今後は全体では横這いか,減少傾向と予測されこれまでのような増加は無いと判断される。TDIもMDIと同じトレンドで推移している。
 ポリウレタンの製品市場はフォームが主力だが,需要産業の海外生産移転や製晶輸入が増加していることから量的な拡大が見込めない。硬質フォームの主用途である電気冷蔵庫は1990年代後半まで500万台を上回っていたが,2007年は生産が246万台,輸入が252万台で,生産と輸入が初めて逆転した。枕など寝具の輸入も拡大中である。
 表1に主なポリウレタン製晶の需要を示す。
 
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 表1 ポリウレタン製品の需要構造 (単位:トン)
 出典:「2009年版ポリウレタン原料・製品の総合分析」より作成(シーエムシー・リサーチ刊)
 注) 需要量は有姿で塗料は溶剤などが多く,樹脂分換算すると2007年が約5万トン


 
 2001年と2007年の市場規模を比較すると,軟質フォームは2%増でほぼ横這い,硬質フォームはl3%減,フォーム全体4%減である。
 これに対し,非フォームはェラストマーが58%,接着剤24%,接着材24%,塗料l5%増加している。士木・建材は8%増で安定成長しているが,規模が大きいシーリング材は29%増でこの分野を牽引している。ウレタン業界ではこれらをCASE(Coating,Adhesive,Sealant,Elastomer)と呼んでいる。
 このような需要環境の変化から市場規模が小さが高付加価値製晶と内需直結型製品の用途開拓を重視している。
 本項では内需直結型の代表である非フォーム型土木・建築資材用ポリウレタンの需要構造を紹介する。
 
 ~土木・建建築用ポリウレタンの概要~
 
 硬質フォームの士木・建築用途は3万8,000トン(構成比約38%)で最大の分野である。非フォームの士木・建築用は約9万トンで,防水材とシーリング材が需要の中心である。塗料,接着剤も建築用が多いが,本項では塗料,接着剤などを除く非フォームの土木・建築分野の需要動向を紹介する。
 ポリウレタン建材は下記のような特徴を持っている。
 ① 液体で作業性が良い, ② 硬化した塗膜性能を自由に変えられる, ③ 常温で硬化する, ④ 色調をカラフルに出来る
 非フォームの士木・建築分野の用途は防水材とシーリング材が中心で構成比は1996年が両用途だけで77%,その他が23%から2007年は両用途が81%,その他が19%で,防水材,シーリング材以外の用途は比率が低下している。表2に土木・建築用ポリウレタンの需要推移を示す。
 
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  図1 土木・建築用ウレタンの用途分類と市場規模(2007年)


 
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  表2 土木・建築用ポリウレタンの需要推移 (単位:トン)
   出典:シーリング材,床材以外は日本ウレタン建材工業会,シーリング材は日本シーリング材工業会,塗り床は日本塗り床工業会資料より作成


 
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       図2 建築用ウレタンの需要推移と住宅着工件数


 
 ウレタン建材の需要は新設住宅着戸数にスライドしているが,2000年代はウレタン建材が着工戸数の伸び率を上回っている。
 新設住宅着工戸数は1973年の190万戸が過去最大で,1990年代は1996年が164万戸を記録している。2000年代は2003年から4年間連続増加したが2007年は大幅に減少した。
 耐震偽装問題を契機に建築基準法が改正され,2007年6月施行された。この改正により審査が厳正になったことで,業界も行政も混乱した。改正前は1ヵ月以内に下りていた確認申請が,2007年10月には3~4ヵ月程度も要するになり,この影響で2007年7月の新設住宅戸数は前年同月比で23.4%減少,8月は過去最悪の減少率である43.3%も激減している。この結果,2007年は前年比19%減となった。2008年1~6月の実績は前年同期比10%減でこれを基に年間を予測すると90万戸台で40数年ぶりに100万戸を割ると予想される。
 一方,ウレタン建材は2006年が前年比2.5%減で,着工戸数の5.3%減を下回つてぃる。2007年は着工戸数が大幅に減少したのに対し,ウレタン建材は僅かだが前年を上回っている。
 
 ~ウレタン建材の主力 ウレタン防水材~
 
 防水材はウレタン建材の主力製品で,業界業界団体である日本ウレタン建材工業会は日本ウレタン防水協会として1969年に発足,l984年に改組し現在の団体名になった。
 発展経緯を表3に示す。
 
 
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  表3 ウレタン防水材の発展経緯 (出典:日本ウレタン建材工業会)


 
 塗膜防水は,下地にプライマーを塗り,防水材を塗り重ねて防水層をつくるもので,現在塗膜防水の大部分はウレタンが占めている。
 ウレタン塗膜防水は,1回の塗りが大きいことやカラーウレタンの着色できる長所があり,最近は超速硬化ウレタンスプレーが著しく伸びている。
 
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   図3 ポリウレタン系塗膜防水材の種類


 
 ウレタン防水剤はl960年代後半から市場を形成し,1980年代にテニスコートなどスポーツ施設にも普及,10年間で40%需要が増加した。1990年代後半以降,成長は鈍化したが,ウレタン建材の中では安定した成長が続いている。
 ウレタン防水材メーカーは少なく,日本ウレタン建材工業会のメンバーでは8社参入している。非会員会社を含めても10社程度と推定され,メーカー数は少ない。
 AGCポリマー建材はこれまでもトップメーカーだが,2位のタイフレックスと僅差で,事業買収によりシェアが拡大した。田島ルーフィング,保士谷建材が上位メーカーで,4社のシェアは75%前後である。
 
 ~ウレタン建材の需要を牽引するシーリング材~
 
 シーリング材の材種は10種類ほどあるが,1成分形と2成分形に大別され,戸建住宅など小さな建築物はI成分形,ビルなど大型の建築物は2成分形が使用されている。材種別ではポリウレタン,変成シリコーン系が戸建住宅,シリコーン系およびポリサルファイド系はビル需要が多い。表4に硬化後の特徴を示す。
 
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  表4 主な2成分シーリング材の硬化後の特徴
  注) ◎:優れている,〇:普通,△:劣る,X:不適 出典:「シーリングハンドブック」日本シーリング材工業会)


 
 ウレタン系シーリング材はl成分形,2成分形および2成分形アクリルウレタンシーリング材があり,1成分形は空気中の水分,2成分形はポリオール(ウレタン)やァクリルオリゴマー(アクリルウレタン)などで硬化する。
 1成分形,2成分形とも中高層以下のコンクリートなどの目地に使用されており,需要は住宅着工件数に比例する。
 シーリング材の全体の生産量は横ばいだが,2007年のポリウレタン系の生産量は2001年比29%増加している。2007年は表lに示したように大幅に減少し,ポリウレタン以外は前年を割っているが,ポリウレタンは増加した。
 
 
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  表5 材種別シーリング材の生産量 (単位:トン)


 
 シーリング材は防水材と対照的にメーカー数は多いが上位メーカーのシェアが高い。1液形はトップメーカーのオート化学工業が70%台で,2位以下を大きく引き離している。2液形は横浜ゴム,サンスター技研,セメダイン上位3社で50%台である。
 
 ~その他のウレタン建材~

 表1に示したように士木・建築用のポリウレタンは防水材45.3%,シーリング材36.0%で2大用途以外は18.7%で床材,舗装材,表面保護材,プライマーが主な用途である。
 
 口 床材
 合成樹脂系床材はタイル床材,シート床材,塗床材に分類され,ウレタンは塗床材に使用される。
 塗床材は防滑性,遮音性,防水性,衛生性,歩行感が良いなどの特徴がある。ポリウレタン系床材はエポキシ系と競合しており,エポキシ系より機械的強度,耐薬品性が劣るが弾性,変形追従性が優れ歩行感が良く,硬度はプレポリマーの処方により自由に変えられるなどの長所を持っている。欠点は模様がっけにくい,養生期間が長い,紫外線により黄変があることが指摘されている。
 塗り床の業界団体は日本ウレタン建材工業会(NUK)と日本塗り床工業会(NNK)がある。NUKはウレタン建材全体を対象としているのに対しNNKはすべての樹脂を対象とした塗り床の業界団体である。NNK調べの塗り床出荷量を表6に示す。
 
 

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 表6 塗り床の出荷量 (単位:トン)
   (出典:日本塗り床工業会資料より作成)
注) 2005年より水系ウレタンコンクリート新たに発表された。2005年3,122トン,206年3,752トン,2007年7,881トン。表1では樹脂分換算(原単位0.14)しウレタンに含めた。


 
 塗り床全体の伸び率は2007年が2001年比16%増だがウレタンは39%増で最も高い。用途は工場,学校・保育園,集合住宅,駐車場,ゴルフ場クラブハウスなどなどがある。
 防水材のメーカー数は少ないのに対して,塗り床メーカーは多く,30社を上回っている。NNK会員会社の大部分はエポキシとともにウレタン塗り床に参入している。

 口 弾性舗装材
 ウレタン弾性舗装は床材と防水材の中間的な性質を持つており,床材を応用した商品である。ウレタン弾性舗装材は弾性,耐摩耗性,柔軟性,衝撃吸収性に優れ,耐久性があり,補修も容易なことからスポーツ施設などに使用されている。
 弾性舗装材の出荷量はピーク時の1992年に1万2,000トンに達し,床材の2倍以上に成長した。
 大きく伸びた要因は競技場で本格的に採用されたことによる。初期は陸上競技場が需要の伸びを支えたが,その後サッカー場,テニスコートJ体育館,屋上運動場などが増加した。
 1993年は減少したが,1万1,000トン台を維持,1994年は6,000トン台に激減した。2002年に5,000トンを割り,最近は4,000トン前後で推移,2007年は4,100トンで,ピーク時の34%に減少した大幅に減少した理由はl992年にバブルが崩壊,スポーツ施設の新規建設が大幅の減少したことによる。

参考文献
「2009年版ポリウレタン原料・製晶の総合分析」シーエムシー・リサーチ2008年11月刊
 
                   (有)シーエムシー・リサーチ
                     須藤正夫