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「工業材料」(日刊工業新聞社)2013年6月号に掲載

                         ㈱シーエムシー・リサーチ 調査部

 
 はじめに
 
 長引く欧州債務危機などにより需要が伸び悩む中、太陽電池市場は、中国メーカーなどの設備増強により大幅な供給過剰状態になっている。
 2013年3月には、太陽電池トップメーカーの中国のサンテックパワーが、太陽電池モジュールの供給過剰や米国の反ダンピング関税などが影響し、会社更生法の申請をした。これ以前には、2012年4月には、一時は生産量が世界一だった独Qセルズが破綻し、同年8月に韓国のハンファ・グループに買収された。米国政府2700万ドルの融資保証を受けていたソリンドラも20I1年8月に破綻した。
 太陽電池メーカーの相次ぐ破綻は、市場のコモディティー化に企業が翻弄された典型例である。この市場では、主要な競争相手がグローバル市場を目指すことを正しい戦略と思う結果、凄まじいスピードで製品が汎用品化し、価格競争が起きている。主力の欧州市場では需要が持ち直しておらず、さらなる減産を迫られる可能性がある。世界のシリコン系太陽電池の市場は表1の通りである。これに伴い、太陽電池の周辺材料についても世界的な供給過剰が続いている。
 
table1      表1 世界のシリコン系太陽電池市場(モジュール販売ベース) (単位:億円)
        (シーエムシー・リサーチ推定)
 
 
 太陽電池の周辺材料・技術の動向
 
 太陽電池の仕様は一般的に太陽に向く上面から、透明ガラス基板、封止材(充填材)、太陽電池セル(基材はシリコンや化合物半導体など)、封止材(充填材)、バックシートの順に構成される(図1)。
 
fig1              図1 太陽電池構成材料概念図
          (出典:㈱ケミトックス 望月三也氏の図より)
 
 
 太陽電池の関連事業を持つ素材メーカーの多くは、その規模の拡大を狙っている。特に、封止材(充填材)とバックシートの競争開発が激しくなっている。太陽電池の主な周辺材料メーカーの動向を表2にまとめた。
 
table2-1table2-2              表2 主な太陽電池の周辺材料メーカー
 
 
 世界の太陽電池周辺材料の市場(ガラス)
 
 結晶シリコン太陽電池には表面を保護するためのカバーガラスを使用する。表面を保護するといっても、変換効率を落とさないために、高い透過率と低反射であることが求められる。現在、太陽電池の表面保護材はガラスが主流であるが、フィルムに替えれば電池が軽くなる上、曲げられるなどの新たな機能を追加できる。
 表面保護ガラスは、結晶シリコン太陽電池の動向に連動する。スペインショックの影響で、2009年の前半に受注が減少したが、後半は盛り返した。2010年は太陽電池モジュールの生産量が増加したことから、ガラス需要も増加した。
 2012年以降のガラス市場は欧州市場では需要の減少、さらに液晶向けや建築向けの価格下落などで収益環境が厳しくなっている。2012年は前年比103.1%の1,340億円の見込みである(表3)。
 
table3       表3 世界の太陽電池周辺材料の市場(ガラス) (単位:億円)
         (シーエムシーリサーチ推定)
 
 
 世界の太陽電池周辺材料の市場(封止材)
 
 封止材は、太陽電池セルや配線を固定し、表面のガラスと裏面のバックシートを接着して太陽電池を風雨から保護する主要部材である。従来品は主にEVA(エチレン・ビニル・アセテート)が使用されている。封止材には、透明性や柔軟性のほか、接着性、引張強度、耐候性などが要求されるため各種の添加剤が配合されるのが一般的である。封止材にはEVA以外の素材もあるが、依然として、EVAがコストパフォーマンスに優れ、全体の95%以上を占めると見られる。
 ただ現在では、欧州を中心に高電圧下の絶縁不良による電流漏れなどのため、PID(potential induced degradation)現象と呼ばれる太陽電池の出力低下が発生し、問題になっている。高電圧・高温度・高湿度などの厳しい条件下で、封止材の水分透過が増えることが原因の一つとみられる(表4)。
 
table4       表4 世界の太陽電池周辺材料の市場(封止材) (単位:億円)
         (シーエムシーリサーチ推定)
 
 
 2010年の封止材市場は、中国向けが好調であり、前年比140.7%の1,210億円と大きく拡大した。そのため、2009年後半から2010年にかけて、封止材の供給は追いつかない状況になったほどである。2011年の市場は前年比128.9%の1,560億円であった。
 近年は価格競争が激化し、金額べースの伸び率は鈍化し、2012年は前年比102.6%の1,600億円の見込みである。
 
 世界の太陽電池周辺材料の市場(バックシート)
 
 バックシートは直接屋外に暴露されるため、耐候性(耐熱性、耐湿性、耐UV光性、耐塩害性など)、電気絶縁性(絶縁破壊電圧、全面耐電圧、絶縁抵抗、表面抵抗など)、機械的特性(引張り強さ、伸び、端列抵抗、弾性率など)、耐薬品性(酸、アルカリなど)、パネル組み立て時の作業性といった実装作業性、EVAフィルムとの接着一体化に対する適合性などが要求される。
 太陽電池用途は、バックシート構成フィルム(機能付与フィルム、絶縁フィルム、防湿フィルム、耐候フィルム)を中心にPETフィルムが用いられている。ただし、PETフィルムは機械特性、耐薬品性、電気特性に優れるが、高温多湿下に長期間さらされると、機械特性が低下することがわかっている。ゆえに、太陽電池用バックシートやモーター用絶緑郎材、回路基板といった用途では耐久性の高いPETフィルムが使用されている。
 2010年はドイツのフィードインタリフ制度の見直しに伴う駆け込み需要から、バックシートの供給が追いつかなくなった時期があった。バックシートは開発当初から、耐候性で実績があるフッ素樹脂フィルムを主構成材料として採用し、実用化されてきたが、水蒸気バリア性が低く、高価格であるということから、フッ素樹脂を使用しない代替の材料の開発が盛んになっていた。
 2012年は、ユーロ圏で進行中の債務危機がバックシート市場に悪影響を及ぼすことから、前年比103.1%の1,010億円の見込みである。それでも2013年以降は、アジア太平洋の多くの国が計画している太陽光発電の拡大により、復調が予想される(表5)。
 
table5        表5 世界の太陽電池周辺材料の市場(バックシート) (単位:億円)
          (シーエムシーリサーチ推定)
 


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