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「工業材料」(日刊工業新聞社) 2003年11月号に掲載

                          ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                             須藤正夫
 

 
 ポリオレフィン系急増60%のシェア, 塩ビは大きく後退~木質用
 
 化粧フィルムとは木目調や柄印刷またはエンボス加工したフィルムを合板など木質板や鋼板にラミネートして使用されるフィルムを指す。建装フィルム,建装シートとも呼ばれる。木質板,鋼板以外に石膏ボード,FRP,アルミ,ステンレスなどにも使用されている。
 表1に示すように化粧フィルムの種類は多いが1995年以前は塩ビが大部分を占めていた。他のフィルムは基材フィルムである塩ビフィルムにラミネートし,耐候性や高鮮鋭性を付与するなど補完的な役割で,需要量は少なかった。(表1)
 
table1-1
table1-2

     表1 化粧フィルムの種類 (参考文献1)


 
 このように塩ビが圧倒的に多かった数年前まで「塩ビ化粧板」,「塩ビ鋼板」という呼称が定着していた。塩ビ以外のフィルムが増加したのに伴い樹脂化粧板,樹脂化粧鋼板という呼び方が普及し,鋼板の業界団体である塩ビ鋼板会は最近,樹脂化粧鋼板会に名称変更しており,塩ビ離れを象徴している。
 化粧フィルムに関する需給データはないが,業界関係者の間では木質板用は1995年,1996年がピークで1億5,000万㎡,その後新設住宅着工件数の減少などの影響により,2002年は1億500万㎡に縮小したとの見方が有力だ。
 塩ビの平均厚みは75μmで重量換算すると,約100g/m2で1995年の需要は15,000トンである。(表2,表3、図1)
 
table2-1
table2-2

  表2 化粧フィルムの素材別市場規模(2002年) (参考文献1)
  ( 注1:括弧内は合計に含まない, 注2:紙は便宜上ポリエステルと同基準)


 
table3

  表3 木質板用化粧フィルムの需要推移 (単位:万m2)(注:2003年は見込み)
   (シーエムシー・リサーチ推定)


 
fig1

   図1 木質板用化粧フィルムの需要推推定


 
 1996年以前はアクリル,ポリエステルフィルムが補完目的の需要が若干あったが,基材フィルムは塩ビがほぼ独占していた。1997年頃よりポリオレフィン系(PO系)が進出,2001年には塩ビを逆転,2002年には60%シェアに達し,ポリエステルや紙なども需要を形成した。一方塩ビのシェアは2002年19%,2003年見込みが11%と大きく落ち込んだ。
 化粧フィルムの素材が塩ビから他素材に急速に転換した理由は次の通りである。
 1990年代にVOC(有機揮発性物質)などによる室内空気汚染が問題視され,1996年,旧建設省,通産省,厚生省,林野庁が共同で「健康住宅研究会」を組織し,1998年,優先取り組み3物質(トルエン,キシレン,ホルムアルデヒド),3薬剤(木材保存剤,可塑剤,防蟻剤)のガイドラインを公表した。
 相前後して,ダイオキシン,エンドクリン(環境ホルモン)問題が大きくクローズアップされ,1998年,旧建設省が「建築物におけるダイオキシン対策研究会」を設置,対策に乗りだした。
 このような流れから,ハウスメーカー,住宅機器・建築部材メーカーは「健康」,「環境」,「安全」をキーワードとした住宅およびその部材供給に拍車がかかった。
 
 供給構造も大きく変化,三菱化学MKVトップメーカーに躍進
 
 素材の需要構造が激変した一方,供給構造も大きく変化した。
 化粧フィルムは塩ビ全盛時代,大日本印刷が40%強,凸版印刷が40%弱,2社で80%のシェアを占めていた。原反フィルムは両社を納入していたリケンテクノス(当時理研ビニル)は他社を大きく引き離す40%以上シェアを持っていた。
 塩ビからPO系に代替したことが契機となり,このシェア関係も大きく変動した。
 PO系は大日本印刷,凸版印刷ともほぼ同時期に商品化したが,量産化技術等に優れた大日本印刷が先行し,シェアの差が拡大した。
 原反フィルムは三菱化学MKVが開発した「アートプライ」が大日本印刷に採用された。同社はこれまで化粧フィルムの原反では実績が乏しかったが現在はPO系で50%,木質用全体で30%のシェアと推定され,リケンテクノスを抜いて一気にトップメーカーの座を確保した。
 
 ポリエステル,PO系は内装建材で需要拡大,外層建材はアクリル系で開発中~樹脂化粧鋼板
 
 樹脂化粧鋼板の国内需要量は1997年が307,000トンに対し,2002年は134,000トンで大きく減少した。建材以外の用途が1990年の132,000トンから2002年は21,000トンに激減した(参考文献2)。
 この理由は最も需要が多かった弱電,特に白物家電が生産を海外移転したことや,価格の安い塗装鋼板への移行などによる。
 これに対し,内装用建材は1990年代前半水準を維持しており,内需の構成比は1990年の27%から54%に倍増しており,新しい化粧フィルムの開発目標はこの用途が重点である。
 木質用化粧フィルムが塩ビから他素材に転換が始まった1997年頃,住宅機器・部材メーカーは鋼板メーカーに対しても塩ビ以外の素材に転換することを求めた。
 鋼板は折り曲げや深絞り加工を伴う用途が多く,原反フィルムに対する要求物性は木質用と比較すると厳しい。更に外層用は高度の耐候性が要求され,当時,鋼板業界では塩ビから他素材への転換は困難だとの説が有力であった。この難題を化粧フィルムに関わるが協力して乗り越え,素材転換が始まった。
 現在,浴室,クローゼットなど内装建材用化粧フィルムは塩ビから非塩ビ系に急激な勢いで転換が進んでいる。
 外層建材用もアクリル系フィルムが開発され,2004年には需要を形成することが予測される。
 鋼板用塩ビ化粧フィルムは2002年で約53%(面積比較)のシェアで木質用と比較すると差はあるが,今後急速に他素材へ転換することが予測される。(図2)
 
fig2

     図2 鋼板用化粧フィルムの需要推移 (参考文献1)


 
 塩ビはポリマーメーカー,原反メーカーの技術格差は小さいが,塩ビ以外の素材はポリマー,製膜,印刷~化粧フィルム各段階の技術開発が重要である。
 PO系はエラストマーを配合することで,ポリエステル系は1,4-シクロヘキサンジメノール(CHDM)や1,4-ブタンジオール(1,4-BDO)を共重合して柔軟性を付与する方法が有力といわれる。
 CHDM変性ポリエステルフィルムはリケンテクノスが「リベスター」,1,4-BDO変性ポリエステルは帝人デュポンフィルムが「テフレック」のブランドで販売している(参考文献3)。
 
 参考文献
1) 「ソフトポリマーの競合分析と市場予測」 2003年 シーエムシー・リサーチ刊
2) 樹脂化粧鋼板会
3) 「非塩ビ系ソフトポリマー・フィルムの新技術」2001年 シーエムシー出版刊

              ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                 須藤正夫(すどうまさお)