化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社) 2004年7月号に掲載

                         ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                            須藤正夫
 

 
 シェルPTT95,000t設備2004年秋稼動
 デュポンもバイオ法PDO設備建設へ

 
 本誌2002年6月号でポリトリメチレンテレフタレート(略称PTTまたは3GT,本稿ではPTTと略)は新規ポリマーとしては久々に大型市場を形成することが期待されると述べたが,この2年で事業化が大きく進み市場が見えてきた。
 PTTは優れた物性とモノマーである1,3-プロパンジオール(PDO)が1,4-ブタンジオールに近い価格で供給され,PTT価格もPBTに接近すると予測され,コストパーフォーマンスの評価が高かまっている。
 シェルケミカルズはモノマーであるPDO年産73,000t,PTT20,000t設備を米国内で稼動しており,PTTをソロテックス(日本)など世界の繊維メーカーに供給している。
 PTTは合弁会社「PTT Poly CANDA」が年産95,000tの大型設備を建設中で2004年央に完成,同年秋に商業運転を開始する予定である。
 PDO73,000tでPTTを200,000t生産することが出来る。同社はPDOの50%をPTT Poly CANDAで消化し50%を外販する計画で長期的には世界のポリエステルメーカーにモノマーを販売することを重点に置く方針である。
 デグサはアクロレイン法PDO年産9,000t設備をドイツに建設,1998年稼働した。デュポンはデグサと提携し,現在,同社より供給を受けている。
 デュポンの本命技術はバイオ法である。2000年8月,テート・&・ライル(英国)とバイオ法PDOの共同開発に関する契約を締結,デュポンは微生物やプロセス技術を提供し,テート社はバイオと発酵の技術や工場のインフラ,原料調達を担当する。
 両社は折半出資で合弁会社「デュポン・テート&ライル」を設立,事業化が大きく前進した。2000年秋,パイロットプラントによる生産を開始,プロセスの経済性などの確認が完了した。年産50,000t規模の商業プラントを建設する計画で,完成は2005~2006年の予定。
 PTTの現有生産能力は年産12,000tで,PDOの新設備建設計画と併行し,第2期計画50,000t,需要拡大に合わせ,100,000t~200,000tの大型設備建設を視野に入れている。
 デュポンはモノマーからポリマーまで一貫生産し,PTTを世界のポリエステルメーカーに販売する方針で,アジアでは東レ(日本),セハン,ヒュービス(以上韓国),遠東紡績(台湾),江蘇方園化繊(中国)に販売している。(表1)
 
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   表1 PDO,PTTの生産計画  (単位:t)
  出典:「2004年版ポリエステル総合分析」シーエムシー・リサーチ2004年6月刊行予定」
  注)PTT POLY CANADA稼動後シェル米国20,000t設備休止予定


 
 創成期のPTT繊維市場を牽引するカーペット
 米国で10~20万tの可能性

 PTT繊維はナイロン,PETと比較すると強度,耐黄変性,耐候性,伸張回復力,初期モジュララス(ソフト性)のバランスが良い。ナイロンは強度が優れているが,耐黄変性,耐候性が劣り,ポリエステルはソフト性,伸張回復率が劣る。
PTT繊維はこれらの物性が評価され,市場が立ち上がってきた。
PTTは開発初期段階で世界の需要量は2003年,17,000~18,000tである。繊維の開拓が先行しており,約15,000tの規模で,10,000tがカーペット(BCF:嵩高加工糸)で占め,非繊維用は2,000~3,000tでフィルムやエンプラ用などである。(表2、表3)
 

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表2 PTT世界の市場規模 (出典:日本化学繊維協会調査レポート№398,04.3刊より作成 原典は東レ)


 
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   表3 PTT繊維の物性 (出典:ソロテックス社)


 
 米国のカーペット生産量は約100万tでナイロン繊維が60万t占めている。PTTはこの用途で大きな初期需要を獲得することが濃厚で,その量は関係者により見方が異なるが,10~20万tといわれる。これが実現すると,PDO,PTTの稼働率向上に寄与,早期のコストダウンが可能となる。
 一方,日本はカーペットの市場規模が小さく,後述するように衣料用,産業用など幅広い用途を開発中である。(表4)
 
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表4 日米の嵩高加工糸の生産規模 (単位:1000トン) (出典:2004繊維ハンドブック,原典は米国「Fiber Organon」アメリカ国務省,日本は経済産業省)


 
 東レ,ソロテックスともに年商100億円台が目標
 日本の市場開拓本格化

 
 日本では旭化成,帝人,東レの3社がPTT繊維の事業化に取り組んできた。
旭化成は1999年,日本で初めてPTT繊維を年産1,000tで企業化,2002年5月帝人と折半出資で合弁会社「ソロテックス」を設立,生産能力を2,700に拡大した。(表5)
 
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表5 東レ,ソロテックスのPTT繊維計画 (出典:「2004年版ポリエステル総合分析」 シーエムシー・リサーチ2004年6月刊行予定」)


 
 ソロテックスは日本毛織,青山商事と共同プロジェクトを立ち上げ,メンズスーツを2004年4月,日本ではじめて販売を開始した。PTT繊維の持つシワ回復性,形態安定性などから型崩れしにくい,さらっとした感触が特徴である。
 日用品ではライオンが2004年2月,歯ブラシの毛にPTT繊維を世界で初めてて採用,「クリニカ」のブランドで発売を開始した。PTT繊維は形態安定性、回復性が優れているので,毛先の開きが少なく,プルーク(歯石)の除去力が長く,ライオンの実験ではナイロン毛では2万回ブラッシングすると毛先が開き,除去力が10~15%低下するのに対して,PTT毛は初期の除去力を維持している。
 重量ベースでは大きな市場にはならないが,PTTの持つ優れた特性が広い範囲で応用されることを示唆している点で注目される。
 ソロテックスが重点を置いて開発している産業分野の用途は自動車用シートで早期採用を目指し,開発を急いでいる。この分野は市場規模が大きく,今後の動向が注目される。
 東レ,東レ・デュポンは2001年5月,デュポンとライセンス契約を締結,2003年6月,同事業をオペロンテックス(東レ・デュポンの100%子会社)に移管した。
 PTT繊維(3GT繊維)は東レの三島工場で生産,オペロンテックスが原糸を,テキスタイル製品を東レが販売している。2002年10月,年産500t設備が稼動開始,2004年2月1,500tに増強した。2004年後半2,000t,2005年3,000tに増強し,2005年には糸売り,テキスタイル合わせて120億円を販売目標としている。同社は衣料用,産業用問わず広い範囲の用途開拓を行っている。
 2003年末,複合糸を用いた乾燥機(タンブラー)対応商品を開発した。ポリウレタン弾性繊維の伸縮率,伸張回復率を持ちながら熱に対する形態安定性を持っている。家庭の乾燥機による縮み,型崩れが少なく,業界の目安となっている収縮6%未満を実現し,「タンブラー禁止」洗濯表示が不要となった。東レは肌着や靴下のなどで2006年,20億円の販売を目標としている。
 ソロテックス,東レともPTTの優れた特性を生かし精力的に用途開拓を行っており,衣料用,産業用,日用品・雑貨用など広い分野で発展すると予測される。
 
 注目される中国市場
 中国当局がPDO誘致の動き

 
 ポリエステル繊維は中国が大きな比重を占めており,各社が進出を検討している。
 ポリエステル繊維は中国の成長が著しく,2000年の生産量510万t(世界シェア28%)から2003年は910万t(世界シェア41%),1.8倍の成長を遂げている。
 ここで注目されるのが中国当局の動きである。2003年10月,広東・香港,日本投資貿易商談会が東京で開催された際,PDOの誘致を行っている。立地は広東省名石化工業区,生産規模は60,000t/y(EO法)というもの。
 ポリエステル繊維は中国を無視して世界戦略を構築できないので,将来PDO,PTTの生産が検討されるのは間違いないと判断される。(表6)
 
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表6 世界のPTT繊維メーカー
 (出典:新聞情報と業界取材をもとに筆者作成)


 
 参考文献
 ①「2004年版ポリエステル樹脂総合分析」 2004.6 シーエムシー・リサーチ刊行予定
 ②「新しい機能性モノマーの市場展望」 2002.3 シーエムシー・リサーチ刊
 ③「2000年版ポリエステル樹脂総合分析」 2000.10 シーエムシー出版刊
 ④「1,3-PDO,PTTの製造,用途および経済性」 2000.8 シーエムシー出版
 ⑤「工業材料」2002.6

 
                ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                   須藤正夫