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「カワサキテクノ短信 」(カワサキテクノリサーチ)2006年6,7月号に掲載

 

土木・建築資材用ポリウレタン(その1)

はじめに

 化学品中,ポリウレタン原料であるTDI(トリレンジイソシアネート)が最も輸出比率が高く,2004年で出荷の74%を占め,MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)も50%を越えている。他の樹脂原料ではスチレンモノマー40%,ビスフェノールA28%,塩ビモノマー22%でイソシアネート類の輸出比率が突出している。
 TDI,MDIは中国へ大量に輸出しているが,大型設備建設計画が進行しており,今後大幅に減少することは予想される。一方製品市場はフォームが主力だが,需要産業の生産移転で拡大が見込めない。
 ウレタン業界は市場規模が小さいが価格が高い高付加価値製品と内需直結型の用途開拓を重視している。本項では内需直結型の代表である非フォーム型土木・建築資材用ポリウレタンの需要構造を紹介する。
 
 

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 表1 ポリウレタン製品の需要構造 (単位:トン)
 出典:「2005年版ポリウレタン原料・製品の総合分析」より作成(シーエムシー・リサーチ刊)
 注1)塗料,接着剤は樹脂分換算注2)表3に含まれていない用途もあり合計はポリウレタン全体を示すものではない。


 
1. 土木・建建築用ポリウレタンの概要
 
1.1 土木・建築用ポリウレタンの用途と需要推移
 
 ウレタン建材の用途分類と市場規模を図1に示す。
 
 
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   図1 土木・建築用ウレタンの用途分類と市場規模(2004年)


 
 硬質フォームの土木・建築需要は3万9,000トン(構成比約37%)で最大の分野である。非フォームの土木・建築用は約9万トンで,防水材とシーリング材が需要の中心である。塗料,接着剤も建築用が多いが,本項では塗料,接着剤などを除く非フォームの土木・建築分野の需要を分析する。ポリウレタン建材は下記のような特徴を持っている。
 ① 液体で作業性が良い,③ 硬化した塗膜性能を自由に変えられる,② 常温で硬化する,④ 色調をカラフルに出来る
 非フォームの土木・建築分野の用途は防水材,シーリング材が中心で構成比は1996年が両用途だけで77%,その他が23%から2004年は両用途が81%,その他が19%で,防水材,シーリング材以外の用途比率が低下している。表2に土木・建築用ポリウレタンの需要推移を示す。
 
 
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  表2 土木・建築用ポリウレタンの需要推移 (単位:トン)
 出典:シーリング材以外は日本ウレタン建材工業会,シーリング材は日本シーリング材工業会


 
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   図2 ウレタン建材の需要推移


 
 1.2 ウレタン建材メーカー
 
 主なウレタン建材メーカーと主な生産品目を表3に示す。
 
 
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 表3 主なウレタン建材メーカー 注) NUK:日本ウレタン建材工業会,JSIA:日本シーリング材工業会


 
2. 防水材
 
 2.1 防水材の種類
 
 防水材はアスファルト防水,シート防水,塗膜防水などに大別に大別される。ウレタンは塗膜防水材で発展している。塗膜防水材分類を図3に示す。
 
 
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 図3 塗膜防水材の種類 (出典;「機能性ポリウレタンの基礎と応用」シーエムシー出版)


 
 塗膜防水は,下地にプライマーにプライマーを塗り,防水材を塗り重ね防水層をつくるもので,現在塗膜防水の大部分はウレタンが占めている。
 ウレタン塗膜防水は,1回の塗りが大きいことやカラーウレタンの着色できる長所があり,最近は超速硬化ウレタンスプレーが著しく伸びている。
 
 
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   図4 ポリウレタン系塗膜防水材の種類


 
 2.2 ウレタン防水材の需要動向
 
 ウレタン防水剤は1960年代後半から市場を形成し,1980年代にテニスコートなどスポーツ施設にも普及,10年間で40%需要が増加した。1990年代後半以降,成長は鈍化したが,ウレタン建材の中では安定した成長が続いている。
 表2に示したように,2004年のウレタン建材全体の需要は1996年比で4.6%と微増だったのに対し,防水剤は13%の増加であった。
 ウレタン建材に占める比率も1996年の42%から2004年は45%に上昇,数年後には50%に達すると予測される。
 
 
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   図5 ウレタン防水材の需要推移


 
 2.3 ウレタン防水材メーカー
 
 ウレタン防水材メーカーは表3に示したように,日本ウレタン建材工業会のメンバーでは8社参入している。非会員会社を含めても10社程度と推定され,メーカー数は少ない。
 トップメーカーは旭硝子ポリウレタン建材で,僅差でダイフレックスが続きこの両社で50%前後のシェアで,三井化学産資,保土谷建材が上位メーカーでこの4社のシェアは75%前後である。 
 

 

土木・建築資材用ポリウレタン(その2)

3. シーリング材
 
 3.1 シーリング材の種類
 
 シーリング材は1成分形と2成分形に大別され,戸建住宅など小さな建築物はⅠ成分形,ビルなど大型の建築物は2成分形が使用されている。材種別ではポリウレタン,変成シリコーン系が戸建住宅,シリコーン系およびポリサルファイド系はビル需要が多い。図1にシーリング材の分類を示す。
 
 
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 図1 シーリング材の分類
 注) *着色剤を別にしたタイプがある。**シリコーン系マスチックには3成分形もある。


 
 
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  表1 主な2成分シーリング材の硬化後の特徴
  注) ◎:優れている,○:普通,△:劣る,×:不適(出典:「シーリングハンドブック」日本シーリング材工業会)


 
 3.2 需要動向
 
 シーリング材に関する統計には下記がある。
 日本接着剤工業会統計は「工業用シーリング材」を対象とし,品種別の区分がない。工業会会員会社の報告数字で,ウレタン建材メーカーの会員は少ない。車両用など工業用シーリング材が中心で建材用は含まれていないと推定される。
 日本ウレタン建材工業会は建材用ウレタンシーリング材を対象としているが,建材シーリング材メーカーの会員が少ないのでカバー率は極めて低い。
 経済産業省統計は建材用を対象とし,全品目をカバーしている。建築・土木用シーリング材の業界団体である日本シーリング材工業会が本統計を採用している。実質的な調査は同工業会と見られる。以上から本項ではこの統計により分析する。
 
 
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 表2 建築用シーリング材の生産推移 (単位:トン) (出典:経済産業省住宅産業窯業建材課)


 
 ウレタン系シーリング材は1成分形,2成分形および2成分形アクリルウレタンシーリング剤があり,1成分形は空気中の水分,2成分形はポリオール(ウレタン)やアクリルオリゴマー(アクリルウレタン)などで硬化する。
 1成分形,2成分形とも中高層以下のコンクリートなどの目地に使用されており,需要は住宅着工件数に比例する。戸建住宅には1成分形が使用されている。
 この10年間,3万トン前後で推移,1998年が2万5,000トン台に落ち込んだが2004年は3万2,000トン台で過去最高を記録した。
 1液形はオート化学工業がトップメーカーで,2位以下を大きく引き離している。これに対し2液形は横浜ゴム,サンスター技研が上位メーカーだが,シェアは20%台で3位以下は10%前後で拮抗している。

4. その他のウレタン建材

 表1.1に示したように土木・建築用のポリウレタンは防水材45.3%,シーリング材36.0%で2大用途以外は18.7%で床材,舗装材,表面保護材,プライマーが主な用途である。

 4.1 床材

(1) ウレタン床材の種類と特徴
 合成樹脂系床材はタイル床材,シート床材,塗床材に分類され,ウレタンは塗床材に使用される。
 塗床材は防滑性,遮音性,防水性,衛生性,歩行感が良いなどのが特徴である。ポリウレタン系床材はエポキシ系と競合しており,エポキシ系より機械的強度,耐薬品性が劣るが弾性,変形追従性が優れ歩行感が良く,硬度はプレポリマーの処方により自由に変えられるなどの長所を持っている。欠点は模様がつけにくい,養生期間が長い,紫外線により黄変があることが指摘されている。
 
(2) 需要動向
 ウレタン床材は1970年前後に市場を形成,1994年に7,000トン近くまで成長したが,この数年は5,000トン台で推移している。
 工場,学校・保育園,集合住宅,駐車場,ゴルフ場クラブハウスなどに使用されて来たが,現在は駐車場が需要の中心となっている。
 
 

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    図2 ウレタン床材の用途


 
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 表3 ウレタン床材の需要推移 (単位:トン)


 
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    図3 ウレタン床材の需要推移


 
(3) ウレタン床材メーカー
 防水材のメーカー数は少ないのに対して,床材は多く,日本ポリウレタン工業会の会員会社は全社生産している(表1.2参照)。旭硝子建材,保土谷建材工業,三井化学産資などが上位メーカーである。
 
 4.2 弾性舗装材

(1) 弾性舗装材の特徴と用途
 ウレタン弾性舗装は床材と防水材の中間的な性質を持っており,床材を応用した商品である。ウレタン弾性舗装材は弾性,耐摩耗性,柔軟性,衝撃吸収性に優れ,耐久性があり,補修も容易なことからスポーツ施設などに使用されている。
 
 

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    図4 弾性舗装材の種類と主な用途


 
(2) 需要動向
 ウレタン建材工業会の出荷統計は1986年以前,床材と舗装材を合せた数量であったが,1987年以降舗装材単独で集計している。同統計では1987年の出荷量は8,230トンで毎年増加し,ピーク時の1992年は1万2,000トンに達し,床材の2倍以上に成長した。
 大きく伸びた要因は競技場で本格的に採用されたことによる。初期は陸上競技場が需要の伸びを支えたが,その後サッカー場,テニスコート,体育館,屋上運動場などが増加した。
1993年は減少したが,1万1,000トン台を維持したが,1994年は6,000トン台に激減した。1990年代後半は6,000トン前後で推移したが,2002年に5,000トンを割り,2004年は3,600トンに激減,ピーク時の30%に減少した。
 大幅に減少した理由は1992年にバブルが崩壊,スポーツ施設の新規建設が大幅の減少したことによる。
 
 本稿は「2005年版ポリウレタン原料・製品の総合分析」(2005年7月シーエムシー・リサーチ刊)より作成した。