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カワサキテクノ短信(カワサキテクノリサーチ)2006年12月号に掲載

                           ㈱シーエムシー・リサーチ 取締役
                              荒牧 清
 

 
 イオン液体は、イミダゾリウムイオンなどの有機カチオンとBF4-、BF6-などのアニオンから成る塩で、比較的低温で液体状態となり、その特性は、引火性・可燃性がなく、熱安定性が高く、粘性が低く、イオン伝導性が高いなどが挙げられる。
 種々あるイオン性液体のうち国内の研究開発で最も汎用されているカチオンは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI)と1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BMI)とみられる。一方、アニオンは、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、テトラフルオロボレート(BF4-)、トリクレートトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3-)、ビストリフルオロメトロスルホン酸イミド(CF3SO2)2N-などである。
 
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   表1 イオン液体の例


 
 この中で電解質用途では、EMIBF4およびEMI(CF3SO2)2N、ジエチルメチル(2-メトキシエチル)アンモニウム(DEME)BF4塩などで、電位窓が広く、電気伝導率等の電気特性が優れるているため応用が期待されている。粘度を低く抑えること、低温時の電気特性を高めることが課題であるが、実用化に向けた技術開発は着々と進んでいる。
 
 2 イオン液体開発企業の動向
 
 以下にイオン液体の開発に取り組んでいる企業の主なテーマおよび取り組み内容を示す。
 
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   表2 開発企業・研究機関の取り組み経緯と動向


 3.イオン液体の用途開拓動向
 
 イオン性液体メーカーが,用途開発で最も期待し注力しているのが電気二重層キャパシター(EDLC)の電解質である。電解質に要求される物性は,電気伝導率,分解電圧,電気二重層容量,使用温度範囲,安全性などであるが、特に,“熱的・化学的に安定であること”“広い温度範囲で高いイオン伝導性を示すこと”“広い電位窓を持ってデバイスの作動電圧を確保すること”“安価で毒性のない材料であること”などが要求されている。
 現在,EDLC用に市販されている電解質は,水溶液系,または有機溶媒系の電解質である。水溶液系はイオン伝導度が高く,不燃性で安全性が高いため,大型のキャパシターに適するが,有機溶媒系は,イオン伝導度は低いが電位窓が広くできるので,EDLCの最大の欠点である,デバイスの高エネルギー密度化が可能である。
 有機溶媒系の代表例は,アルキルアンモニウム塩やスルホニウム塩をプロピレンカーボネートやγ-ブチロラクトンなどの非プロトン性の極性溶媒に溶解した系であるが、欠点は,電気二重層容量が水溶液系よりも小さいことである。このため,イオン性液体がこれを凌ぐ電解液として期待されている。
 最近1~2年,イミダゾリウム塩系や4級アンモニウム塩系の,サンプル供給が非常に活発化しており,イオン液体メーカーの期待も高まっていきている。EDLCの電解液はは,リチウムイオン電池ほど厳しい要求がないため,イオン液体の電解液用途では最適な用途とみられ,小型の製品においては製品レベルでも採用され実績もあがって来ている。
 しかし、大型のEDLC市場が動きだすには,EDLC自体の市場開拓動向も左右されるため,本格的な需要が立ち上がるかどうかはデバイスの普及状況もみなければならない。メーカーの多くは,2005年に量産体制の構築を発表し,その設備での生産が始まっているが、低コストの精製技術の確立が新たな課題になってきている。
 EDLCは,パソコンや家電のバックアップ電源に採用され,既にイオン液体による電解液もその一角を占める状況となっている。今後は,自動車向けなど大型のEDLCへの採用がどのように進むか、注目を集めるようになるだろう。
 
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 表3 既存のEDLC電解液の特徴
 *水系電解液は,主に硫酸水溶液が使用されている。硫酸水溶液は電気伝導率が高く,内部抵抗の小さいEDLC作成できる。欠点は,水の分解電圧が低いため,定格電圧が小さくなってしまうことである。
 *非水系電解液は,内部低効が高く電気伝導率が低くなることが欠点であるが,分解電圧が大きいため定格電圧を大きくできる長所がある。
 *従って,高エネルギー密度が要求されるハイブリッド自動車などでは,非水系電解液が有利とされ,非水系での開発が行われている。


 
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    表4 EDLC電解液におけるイオン液体の課題


 
 4.イオン液体メーカーの生産動向
 
 イオン液体メーカーの生産状況を表5に示した。
 
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     表5 イオン性液体開発メーカーの生産状況


 
 先行するメーカーが2004年から2005年にかけての量産化を発表したが,しばらくは足踏み状況が続いていた。2005年からEDLCへの採用があり,今後の市場拡大が期待されている。
 電気二重層キャパシターをいちはやく製品化してイオン性液体の実用化に向けて表に出てきたのは日清紡績である。電気二重層キャパシターに関しては,デバイス需要が今後大きく拡大するもと考えられ、イオン性液体の開発メーカーの全てが研究・開発に取り組んでいる。
 現在,量産に向かって動き出したのは,東洋合成工業,広栄化学工業、日本カーリット,などである。また,BASFは自社のプロセスの中でイオン性液体を使用した反応を開発し,ライセンス事業を立ち上げ,世界で初めての工業レベルの応用として注目されている。
 東洋合成工業は,量産プラントを設置し,サンプル出荷を行っている。電気二重層キャパシターで一部採用され,小型タイプの電気二重層キャパシターの電解液では製品にも採用され,普及が始まっている。サンプル出荷も継続的で出荷量も増加傾向に向かっており,本格生産に移行する準備を進めている。
 広栄化学工業は,千葉工場内にマルチプラントを設備し,サンプル供給を継続しているが,量産に対応する準備を進めている。
 日本カーリットは,積層タイプの電気二重層キャパシターが無停電電源装置(UPS)で製品に採用されている。具体化している用途はEDLC用電解質および樹脂の導電性付与剤である。今後の需要増をにらみ設備増強を計画している。
 日清紡績は自社開発の4級アンモニウム塩を使用した電解液を採用した電気二重層キャパシターのデバイスそのものの生産を開始している。2005年秋に月産1万個体制を確立し,一部製品ベースの出荷も行っている。
 その他、ラボベースのテストサンプル段階のメーカーも多く、今後、イオン液体の市場拡大に伴い,これらのメーカーのどのように対応して行くか注目したい。
 
                 ㈱シーエムシー・リサーチ 取締役
                    荒牧 清(あらまき きよし)