化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社) 2007年2月号に掲載

                          ㈱シーエムシー・リサーチ 取締役
                             荒牧 清
 

 
 ◇ 成長するDVD用色素の市場
 
 近年、世界各国でデジタルハイビジョン放送やインターネットの大容量映像が配信されるようになり、大型ディスプレイ市場が拡大している。TVの大画面化に伴い、大容量で長時間録画が可能な記録型ディスクの市場動向が注目されている。
 現在、急成長しているDVDの市場は追記型のDVD-Rが圧倒的に多く使用されているが、次世代のHD DVD(High Definition DVD)、BD(Blu-ray Disc)においても追記型が主流となることが確実視され、同時に構成材料の記録膜用色素の市場拡大も見込まれている。
 DVDの規格化団体であるDVDフォーラムが、HD DVD-Rの規格を策定したことで、ディスクメーカーによる開発競争が活発化しているが、より高品質でデータ保持の信頼性の高い記録膜を形成するための有機色素の開発も求められている。本稿では成長を続けるDVD-R用の記録膜用有機色素の市場動向を述べる。
 
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  表1 次世代光ディスク
  注)次世代光ディスクはHDTVの高画質映像や10GB以上のデータ記録に対応したもの。
  注)HVDはHolographic Versatile Discの略称


 
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   表2 次世代ディスクメーカー動向


 
 ◇ DVD-R用色素の概要
 
 DVD-Rに使用されている有機色素は、主にアゾ系とシアニン系の2種類であるが、最近はより高機能な色素が開発され市場投入されている。
 シアニン系色素は、CD-R、DVD-Rで多用されている色素である。シアニン色素は、単独では耐候性が悪いため、一重項酸素クエンチャーとして、ジチオールニッケル錯体などを加え自然光による色素の劣化を抑えなければならない。記録データの保存性能はこの耐光剤の性能に依存している。一重項クエンチャーは、添加物として加えるよりも、シアニン色素の対イオンとして合成時に分子中に取り込むと耐候性がより向上するといわれる。CD-R用のメチン鎖を短くする、置換基を選変えるなどしてDVD用の波長に対応したものが採用されている。
 アゾ系色素は、三菱化学が独自に開発した色素で、現在、DVD-Rで最も多く使われている色素である。耐候性、耐熱性に極めて優れており、耐候性も良好であるため一重項クエンチャーの助けは不要である。DVD-R用は、アゾ系色素の金属錯体はジアゾ成分、カップリング成分の配位基を選ぶことで吸収極大波長を選択・適合できる。ジアゾ成分はピリジン、チアジアゾール、チアゾール、イミダゾールなどがあり、配位基はOH、COOH、NHSO2R、NHCOR、NH2などがある。開発当初は三菱製のCD-R、DVD-Rのみ採用している色素であったが、三菱化学は外販を始めたため、他のメディアメーカーにも採用が広がっている。記録用色素の中では、耐久性が一番高いと言われ評価されている。
 新色素は、三菱化学や三井化学などが開発している。林原生物化学研究所、三菱化学メディア、東芝が共同で開発した色素は、アゾ色素を応用したもので、金属窒化物の劣化しにくい性質を利用し、データの長時間保存が可能であることを特徴としている。また、三井化学は山本化成と共同で、2層ディスクに使用する新しい有機色素の開発している。これまでの色素開発で培われた分子設計技術や有機合成技術をベースにDVD-R用色素を開発し市場参入してきた。
 
 ◇ DVD-R色素の需要
 
 記録型DVDの世界需要は、追記型DVDが全体の93%を占める。CD-Rの世界需要が減少傾向に転じる中で、数量でもCD-Rを越える勢いで伸びている。
 パソコンへの記録型DVDドライブの標準搭載やメディア価格の低下に支えられ、パソコンユーザーやレコーダーユーザーから使いやすく安価なメディアとして支持されている。
 追記型DVDは、2004年、2005年とも前年比で200%以上の伸びを示し、2006年も前年より成長率は低下したが,まだ高い伸び率を示している。追記型DVDの高成長に伴い、記録用の有機色素も急成長している。
 
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   表3 追記型DVDの世界需要量(単位:百万枚,%)
     ( )は前年比 日本記録メディア工業会


 
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  表4 追記型DVDの世界生産量(単位:百万枚,%)
    ( )は前年比 日本記録メディア工業会


 
 DVD-R用色素の主流はアゾ系で、開発メーカーの三菱化学メディアが世界需要の約60~70%のシェアを持ち、アゾ系で市場参入しているコダックのシェア、10~20%と合わせ、アゾ系の占める割合が70~80%を占めている。アゾ系は20~30%のシェアと見られ、国内メーカーではTDK、旭電化などがそれぞれ独自技術で開発した製品を上市している。
 記録用色素の市場規模は、データがないためその実態把握は難しいが、世界の追記型ディスク市場の動向をふまえて2005年を推定すると、数量で約6,500kg、金額ベースで55億円程度と推定される。
 今後も、記録用色素の市場規模は数量ベースでは高成長が続くものと見られるが、CD-Rの記録用色素にみられたように、製品の生産数量の増加とともに単価の下落が急速に進むことが予想される。この価格の変化は、構成材料全体に及ぶが、特に記録膜用色素においては金額ベースの市場拡大にブレーキがかかり、ゆるやかな増加傾向に転換するものと思われる。
 
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    表5 DVD-R用色素の需要数量と金額(単位:kg、百万円)
      (シーエムシー・リサーチ推定)


 
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   図1 追記型DVDの地域別シェア
     (2006年予測)


 
fig2

   図2 追記型DVDの生産量の推移


 
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   図3 DVD-R用色素の種類別需要構成


 
fig4

      図4 DVD-R用色素の需要推移


 
 ◇ DVD-R用記録色素のメーカー動向
 
① 三菱化学メディア

 現行のDVD-Rには、同社の開発したアゾ系色素が主流となっているが、次世代光ディスクにおいては、青紫色レーザーの短波長に対する感度と再生耐用性を確保する色素がなかったため、新規色素の開発と量産技術の確立が課題となっていた。
 林原生物化学研究所、三菱化学メディア、東芝の3社は、新たな有機色素材料を開発し、これを使って日立マクセル、三菱化学メディア、現行の製造ラインで新色素材料を使用し、HD DVD-Rディスク(1層15ギガバイト)の量産体制を整えた。

② 三井化学

 CD-R用フタロシアニンを台湾に輸出してきたが、DVD-R用色素は、ピロメリット系が8倍速に対応できなかったことで、新規色素の開発を急いでいた。
 最近、山本化成と共同で、HD DVD-Rの2層ディスクに使用する新しい色素の開発に成功し、市場参入を果たした。2層のHD DVD-Rが現行のDVDと同じプロセスでできるという特徴があり、ディスクメーカーなどから期待されている。

③ クラリアント

 東芝とクラリアント社は、色素をベースとした2層式のHD DVD-Rメディアの開発に成功したことを発表している。開発色素は、高反射率、熱伝導性、透過性、高感度などの特性を持っていることが特徴で、2層式ディスクに使用できるものである。クラリアント社は、この色素を「Optofast」シリーズとしてディスクメーカー向けに販売していく計画している。

④ 富士フイルム

 同社は、光堅牢性改善に関して、従来の光堅牢化技術とは異なるテトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体をベースにした光堅牢化新技術を開発した。この技術が追記型光ディスクの光堅牢化技術として有効であるという。同社が独自開発した「オキソライフ」色素は、熱干渉によるデータの記録/読取エラーの発生を抑え、高感度・高精度な記録ができるうえ、高温・高湿環境下でも堅牢性、耐光性に優れ、データの長期保存性を向上させることを特徴としている。

⑤ TDK

 独自開発の塩形成シアニン色素を採用したDVD-Rを市場投入している。この色素は、シアニン色素の光に対する安定化のため、一重項酸素クエンチャーと塩形成させたもので、光吸収率、耐光性などに優れ、高感度で耐久性に優れることを特徴としている。

⑥ リコー

 同社は、独自の貼り合せ製法である「インバーテッドスタック方式」と新開発の高精度スタンパーおよび新開発の記録色素「Advanced SD Dye δtype」を採用したDVD-Rを製品化している。従来方式は全ての層を1枚の基板の上に積み重ねて製造する製造する積層方式となっているが、基板から半透明反射層のディスクと記録層ディスクを別々に製造し1枚のディスクとし低コスト化を実現し、新色素は耐久性の向上を実現したことを特徴としている。

⑥ チバ・スペシャルティ・ケミカルズ

 同社は、CD-R用色素の供給で世界市場において最大のシェアを確保しているが、2005年からDVD-R用色素分野にも市場参入している。追記型DVD向け色素は、IRUGAPHOR 1688名で販売しているが、ディスク生産工程に老いて幅広い装置に容易に適合でき、コスト効率に優れていることを特徴としている。
 
参考文献

 「機能性色素の最新技術」 シーエムシー出版(2003年3月)
 
                ㈱シーエムシー・リサーチ 取締役
                   荒牧 清(あらまき きよし)