化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社)2012年5月号に掲載

                           ㈱シーエムシー・リサーチ

 
 はじめに
 
 カーボン素材は天然・人造黒鉛を用いて、自動車タイヤ向けに代表されるカーボンブラックをはじめ電極用、活性炭などにその特性を生かして各種製品が供給されてきた。これら汎用的な用途の素材に対してハイテク分野で注目されているのがカーボン繊維、特殊カーボンなどの新しい機能性材料である。エレクトロニクス産業、航空機、宇宙産業、自動車産業などの進展に伴い、カーボンの応用技術の開発が意欲的に取り組まれ、新しい機能を付与した材料が次々と製品化され、これらはニューカーボンと呼ばれ期待されている。
 本稿では特殊カーボン製品とカーボン繊維複合材料に注目しその主要製品の市場動向をまとめた。
 
 特殊カーボン製品の用途
 
 特殊カーボン製品は、冶金用、電気用、機械用、化学用などの用途に分類でき、その製品は、発熱体、るつぼ、炉内の治具部品、成形断熱材など多岐にわたる。
 冶金用は、カーボンが耐熱性に優れ、化学的に安定していることから発熱体、るつぼ、炉内の治具部品、成形断熱材など多くの製品で使用されている。特に近年は半導体製造分野で、シリコンの単結晶や多結晶の引き上げ装置、ウエハー処理工程で使われるサセプターやホルダ一類、イオン注入装置の電極やマスク板などで多量に使用されている。
 電気用では、量産タイプのブラシが自動車、電車、家電などで大量に使用されており、最近は、燃料電池や電気自動車用のLiイオン電池のカーボン電極が伸びてきている。
 機械用は、カーボンの摩擦が少ないという性質が活かされ、メカニカルシールや軸受けに使われているほか、多くの製品に使用されている。
 ファインセラミック分野で、チッ化アルミなどの微粉を高温高圧で圧縮して固めた高性能材料を作ることも多くなり、これにホットプレス炉が使われることから、C/Cモールドやカーボンパンチ棒などの需要もみられる。その他、焼結金属製品(自動車部品や超硬工具など)の焼成炉で、トレイ、セッター、試科ケースなどの各種カーボン製品が使われている。
 その他用途では、航空機のブレーキ用にC/Cコンポジットが実用化され、原子炉にも内外壁のタイルや核分裂反応の制御材料としての利用がみられる。海外ではカーボンの化学的に安定性を利用し、10数年前から体内に埋め込む心臓弁なども開発されてきている。
 特殊カーボン製品の分類、用途、製品例の一覧を表1に示す。
 
table1             表1 特殊カーボン製品の分類と用途
 
 
 特殊カーボン製品の需要動向
 
 カーボン材料の需要推移を表2に示すように電極計、ブラシ、特殊カーボン製品、カーボン繊維で集計した。トータルは、出荷べースでみると、2007年の287,000トンを基準に2008年は対前年比3%減、2009年は30.7%減と大幅に減少し、2010年に入ると景気回復ムードに向かい、対前年比プラス33.2%の大幅増加となった。
 製品別でみると、ブラシ類は2008年の対前年比12%増から、2009年はマイナス22.3%減少であったが、2010年にはプラス37.8%の大幅な増加であった。同様に特殊カーボン製品も、2008年は対前年比1.2%増から2009年には40%の大幅減少があったが、2010年に入り、39.3%と大幅に増加している。
 そして、2010年に入り、等方性黒鉛や成形断熱材などの需要が回復し、カーボン業界で極度に需給バランスの逼迫する局面がみられるようになっている。東日本大震災の影響から工場の操業を中断したメーカもあることから、一部のユーザーで代替供給先を手当てするなどの対応もみられる。等方性黒鉛は、2O11年の震災前からすでに需給が逼迫しており、さらにLED、太陽電池、半導体関連などさまざまな用途分野で需要の回復があったため、これらの対応に追われたカーボン供給メーカは余力がない状況が続いている。
 
table2          表2 炭素製品の需要推移 (トン/年)
 (資料:電気ブラシ、特殊炭素製品は経済産業省窯業建材統計、黒鉛るつぼは黒鉛坩堝同業界)
 
 
 特殊カーボン製品メーカの動向
 
 カーボン製品メーカのうち、等方性黒鉛材料を主カとする東洋炭素では、詫間専業所に4,000トンプラントを新設し、計15,000トン体制とし世界シェア約30%を占める大手メーカとして展開を図るほか、イビデンが中核専業の一つである等方性黒鉛の能力を2010年に倍増し、年産7,200トンに引き上げている。その他、2010年以降の需要拡大を見込んで東海カーボンや新日本テクノカーボンがデボトルネックにより能力増強を打ち出しており、 また、東洋炭素も次期増設の検討も視野に人れている。
 新日本テクノカーボンは、震災で仙台工場が被災したが短期間で復旧作業を行い、1ヶ月後には再稼動している。増設を行ったイビデンは岐阜(神戸専業場)で2010年10月から稼働に入っているが、小規模のため中国など新興国向けの需要拡大を埋め合わせるには不十分な能カとみられる。
 東海カーボンの手直し増設分2,000トンやSGLカーボンジャパンの増段分1万トンはいずれも増設蒔期が2012年であり、稼働時期が明確ではない。
 等方性黒鉛材とは別にタイト感が強い材料に各種高温炉に用いられる成形断熱材がある。これには最大手のクレハ(いわき専業所)や、日本カーボン(白河工場)が震災で製造が一時停止し供給が心配されたが、いずれも早期に復旧作業を行い、4月には生産を再開させている。

 代表的な等方性黒鉛メーカの動向をみると、需要の中心は特殊カーボン製品の項目であり、市場規模で見る限り、半導体用治具、電子管用アノード、グリッド、電車のパンタグラフ、放電加工用電極などの超耐塑性精密加工品が大半である。
 電気ブラシは等方性黒鉛材の重要な用途であり、自動車電装用から電動工具、家電用、一般作業用、マイクロモーター用などさまざまな用途に採用され、特に自動車用途の伸びが大きい。黒鉛るつぼも代表的な等方性黒鉛製品でもあるが、国内需要の伸び悩むなかで輸出の増加が目立ってきている。
 
 主要カーボン製品の市場動向
 
 以下では、主な炭素製品のうち摩擦材、電極材、CFRP、C/Cコンポジットを取り上げその市場動向を示す。
① 人造黒鉛電極材
 人造黒鉛電極材は、主に人造黒鉛から造られた金属精錬用の電極であり、大半は電気炉製鋼法で鉄スクラップを融解する時に陰極となる黒鉛棒として使用される。人造黒鉛電極材は、その大半が電気炉製鋼で使用される。電気炉製鋼は主に特殊鋼製造に使用されその電気炉による電炉鋼の生産は年々増加がみられ、必然的に製鋼用アーク炉に使用される電極材の需要も拡大がみられる。
 人造黒鉛電極材の需要量は大きく、全炭素材料のなかで約65%以上を占めている。市場規模は、人造黒鉛電極(丸形)およびその他の電極を含めて2009年の出荷は数量べースで 150,411トン(前年比-28.7%の大幅減)から2010年は回復基調にあり195,986トン(前年比30.3%増)、金額べースでは860億円の製品である(表3)。
 
table3          表3 人造黒鉛電極材の市場規模 (単位:トン/年)
 
 
 人造黒鉛電極材参入企業のなかで、昭和電工、SECカーボン、シーケム(新日鉄化学)、日本カーボン、東海カーボンなどのシェアが比較的大きい。
② CFRP (カーボン繊維コンポジット)
 カーボン繊維を単体で用いる用途は非常に少なく、製品の大半は熱硬化性樹脂(主にエポキシ樹脂)を用いたCFRP (Carbon Fiber Reinforced Plastics)やC/Cコンポジットなどである。CFRPは、カーボン繊維とてトリックス樹脂と組み合わせカーボン繊維複合体あるいはカーボン繊維コンポジットとも呼ばれ、PAN系、ピッチ系のカーボン繊維がいずれも使用されており、それぞれの特徴を生かした用途に使い分けられる。
 CFRPの射出成形品は、主に樹脂の耐性、強度アップ、耐熱性向上、さらにカーボン特有の導電性を利用することで樹脂材料に静電気防止や電磁波シールド機能を加えることが可能である。
 CFRPはこれらの特性を利用して、ノートパソコンハウジング、液晶プロジェクターから各種エレクトロニクス機器ハウジング、カメラボティ、レンズ鏡筒、電子機器部品など量産化による低コスト製品向けに使用されている。
 また射出成形向けカーボン強化品は、各エンプラや汎用樹脂メーカの品揃え目的の場合が多く、ガラス強化よりコストが高くなることから汎用的なグレードとはなり難い欠点がある。これまでは半導体搬送用キャリア向けで、カーボンブラックを使用する半導体部品のエラーが発生するため、その代替向けで需要を伸ばしてきた。(表4、表5)
 
table4            表4 CFRPの需要量 (単位:トン/年)
              (資料:経済産業省窯業建材統計)
 
table5           表5 CFRPの用途別シェア (単位:トン/年)
             (シーエムシー・リサーチ推定)
 
 
 また、バイクのへルメット収納ボックスなど剛性、軽量化をメリットに需要を見出すものやOA機器などの電磁波シールド、帯電防止機能を付与する部品やカメラ部品、ポンプ部品、各種軸受、カムなど摺動性、強度が求められる部品などの採用が多くみられる。
 射出成形品は、生産ロットの多い部品に絞られる傾向にあるが、カーボン繊維にPAN系とピッチ系で価格差が生じており、コストの低いピッチ系が優位となっている。射出成形品向けカーボン材料は、使用範囲は絞られるが、バージン品からロス分(オフグレード)など、その応用も多いため使用量の正確な数量は把握できないのが実態である。
③ C/Cコンポジット
 C/Cコンポジットは、黒鉛を炭素繊維で補強した材料で、軽量、強度、高弾性で2,000℃以上の高温に耐える優れた性能を持ち、各メーカにより製品、用途、特徴が異なる。
 例えば、東洋炭素は半導体製品向けの等方性黒鉛表面にCVD法でSiC(炭化ケイ素)を被覆した材料をSi単結晶引き上げ装置部材、ホットプレス用ダイス向けに販売し、一方C/Cコンポジット専業のアクロスなどは板材、バ一村高弾性C/C材、シート、コイルバネ、板バネ、ボルト/ナット、ロッド、パイプなど各種産業用途向けに多彩な拡販を行っている。C/Cコンポジットの2010年の需要量は7,940トンと推定され、前年比28%の高い伸びを示している(表6)。
 
table6           表6 C/Cコンポジットの需要量(国内) (単位:t)
             (シーエムシー・リサーチ推定)
 
 
 カーボン製品市場の今後
 
比較的新しいカーボン材料として、カーボンナノチューブ、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状カーボン、多孔性カーボン、炭化ケイ素繊維、フラーレンなどがあり,これらは応用開発を経て実用化の域に達してきたが、今後も、各種カーボン製品が、新しい機能の開発と用途の開拓を重ねながら市場を拡大して行くことは間違いないであろう。
 

参考文献
カーボン製品市場の徹底分析、2011年12月、シ一エムシー・リサーチ
 


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