「工業材料」(日刊工業新聞社)2011年11月号に掲載
㈱シーエムシー・リサーチ
プラスチック部品の需要はどうなるか
石油資源の枯渇問題が提起され、ガソリンの価格が急上昇した1990年代以来、自動車の軽量化は最優先課題とされ、樹脂材料の採用が検討されてきた。その後、環境問題、そして韓国の台頭、急発展を遂げる開発途上国の市場拡大、リーマン・ショック、さらに東日本大震災と、日本の自動車産業を取り巻く情勢は混沌状態にある。こうした状況は材料を供給する樹脂メーカーにも多大な衝撃を与えている。大きく変動する市場環境が、自動車材料として使用されているプラスチックの需要にどのようか変化をもたらすのか、本稿ではその分析を試みた。
部品別の樹脂材料の使用状況
自動車部品に採用される樹脂の選択の過程は、その部品に対する市場のニーズを把握し、材料の検討目標、クリアーすべき課題を設定し、これらの情報をもとに、部品に求められる材料の機械的性質、化学的性質などの必要物性を明確にしていく。また、その部品に求められる特有の機能も重要な要素である。樹脂によりこのバランスがことごとく異なるので、こうした物性をクリアーし、最もバランスのとれたものについて、その実用化を評価・検討していく。そして、最終的な段階では、軽量化の効果、社会的な要請に対する貢献度なども踏まえ、商品としてのコストパフォーマンスが評価される。
この過程を図1に模式的に示し、部品の機械的要求物性の例を図2、自動車用材料として使用される樹脂に対してその部位による耐熱性の違いを図3に示した。
図1 樹脂材料スクリーニングプロセス
図2 部位別部品の機械的要求物性バランス(イメージ)
図3 各種部品の使用中の温度レベル
(各種データより、収集、調整したもの)
自動車部品用プラスチックの需要
自動車に使用されているプラスチックの需要については、各自動車メーカーの車種別の生産実績をもとに、その部品ごとに樹脂の使用状況を調査し、これを集計するという統計処理手法を用いて需要量を求めた。その結果をまとめたものが表1、図4である。
表1 自動車向けプラスチックの需要推移(2007~2009年) (単位:トン)
図4 プラスチックの需要比率(2008年)
リーマン・ショックのあと、車の生産台数が激減し、その影響で、プラスチック部品全体の需要量は減少しているが、樹脂の構成比率には大きな変化は見られない。
しかし、今後、リサイクル絡みの樹脂の統一化、モジュール化による個別材料に対する物性レベルの緩和、新しい材料の開発、材料の品質改善などの要因により、樹脂材料の使用比率の変化が起きてくることが予想される。
HV・EVでプラスチック部品の何が変わるか
自動車産業界では次世代自動車として環境に優しい車づくりに躍起となっている。その目標とするところは、バッテリーで電気モータを動かす電気自動車(EV)であり、自ら発電しながら走る燃料電池自動車(FCV)であるが、こうしたガソリンエンジンに代わる新しい動力源を使う車両が普及するためには、燃料の供給スタンドの整備や、車両の価格問題、走行路離を確保するための技術的課題が山積しており、その実現にはまだかなりの時間を要する。そこで、開発されたのがガソリンエンジンと電気モータを組み合わせたハイブリッド自動車(HV)である。
ガソリン代の高騰と、政府による減税対策が購買意欲を促し、ハイブリッドカーの売行きが極めて好調である。このような動きの中で、樹脂部品は、どのような役割を果たしているのであろうか。
HV・EVで残る部品・不要になる部品
結論からいえば、HVは、従来のガソリンによる内燃機関に、電気モータによる駆動系を付け加えたものである。したがって、基本的には従来のガソリン自動車に搭載されていた部品はそのままHVでも使われている(表2)。
表2 ガソリン車とEV車における部品の変遷
駆動システムに使用される部品の材料は、今後需要量が増大していくものと考えられるが、駆動系においては、力学的、耐熱性などで、樹脂が使われるチャンスは非常に小さく、個々の部品を見ても大きな変化はないものと考えられる。
しかし、HVに特有な部品もある。具体的には、新しいタイプのモータ/ジェネレータ、パワーコントロールユニット、二次電池などが追加される。とりわけ二次電池は、現在は電池・電気メーカーが生産しているが、将来の電気自動車での大きな市場をにらんで、数多くの企業がこの分野へ参入している。電池の性能の鍵を握っている電極や電解質などの部品・素材については、化学メーカーの得意とするところであり、ますます激しい競争 が展開されるであろう。
HV・EV導入と樹脂材料の需要予測
HV・EVなどのエコカーの普及に伴う樹指量の需要予測をするため、各自動車メーカーの車種別の生産台数を基準に、車種別の樹脂部品の重量に、その採用比率を乗じて自動車別に樹脂の使用量を算出し、これに生産台数を乗じて車種別・樹脂別の使用重量を算出するという方法で試算した。
HVの部品点数はモータ関係、コントローラ、そして二次電池などに関連したものが増加する。そしてEVでは、エンジン周り、燃料系などの部品がなくなり、これらに使用されている樹脂の量は削減されることになる。ここでEV市場の拡大とともに、不要になる部品に使われている樹脂の量を試算し、将来の自動車部品に使用される樹脂の需要を予測した。
HV・EVの生産台数予測は、表3に示した普及率に基づき、HVは20I6年に144万台、2020年には385万台程度、一方、EVはそれぞれ15万台、38万台程度になるものと予測した(表4)。
表3 HV・EVの普及率 (単位:%)
表4 HV・EV車予測台数(2012・2016・2020年) (単位:台)
これら各車種におけるエコカーの普及を考慮し、樹脂の需要量の予測をした結果が表5である。エコカーの市場での普及によりマイナス影響を受ける樹脂もあるが、車自体の需要拡大による樹脂使用量の伸びがこれを十分に補っている。
表5 EV車導入を考慮した樹脂需要の予測(2012・2016・2020年)
(単位:トン)
ちなみに、エコカーの導入により影響を受けると思われる樹脂の種類、ならびに今後2012~2020年の間に影響を受けるその量の積算値を表6および図5に示した。最もマイナスの影響が大きいのは、インテークマニホールドなどに使われているPA、ついでエアインテークパイプなどに使われているPP、そしてガソリンタンク用のPEとなっている。
表6 EV車の導入による樹脂需要の減少インパクト(2012・2016・2020年)
(単位:トン)
図5 EV車の導入による樹脂需要の減少インパクト(2012~2020年積算)
こうした予測は、市場の車種の構成比率の変化があれば、また違った形となるし、エコカーの普及率についても、まだまだ不確定要素があるので、今後とも市場を注意深く見守っていく必要がある。
参考文献
1)「自動車用プラスチック部品のメーカー分析と需要予測」(シーエムシー・リサーチ、2011年5月)
シーエムシー・リサーチ
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