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「工業材料」(日刊工業新聞社)2011年7月号に掲載

                          ㈱シーエムシー・リサーチ
 

 
 自然エネルギーの利用拡大への期待
 
 東日本大震災による原発事故は、電カインフラの重要性を再認識させるとともに、自然エネルギ一など新エネルギーの導入・拡大を求める論議を活発化させるに至った。これまで原子力発電は、発電コスト、安定供給およびCO2対策などの面で評価され、さらなる増大を期待されていたが、今回の事故でその要である安全性への脆さが露呈し、対策の全面的な見直しが緊急の課題となった。
 代替手段としての、太陽光や風力発電などの自然エネルギーによる発電は環境対応の点で優位にはあるが、発電コストが高くかつ発電量が昼夜、天候ならびに風況などに左右されることから、基幹電源にはなり得ないと考えられていた(表1)。この自然エネルギーの電力を安定な”系統電源”として利用するためには、蓄電池の併用が有効な手段ではあるが、その分電力コストも上昇させるといった課題が解決されなければならない。自然エネルギー蓄電分野の二大電池は、ナトリウム硫黄電池(NaS)や-ッケル水素電池(NiMH)、リチウムイオン電池(LiB)などの採用が見られるが、本稿では特性面で最も可能性の高い、LiB を中心にその導入と開発の動向を紹介する(図1)。
 
table1            表1 自然エネルギー発電(事業用)の特性と蓄電
 
 
fig1              図1 系統連系によるエネルギー経済概念図
 
 
 資源エネルギー庁のガイドライン
 
 2010年7月に国が発表した「長期エネルギー需給見通し」およびその基礎とした「新エネルギー等の導入目標」は、2008年4月の発表が最新である。その後に示された政策は、太陽光発電の買取り制度(2009年10月)などであり、基本政策に関する追加や変更は行われでいない。
 なお、「現状固定ケース」と示されているのは自然エネルギーの導入努力を継続したケースで、「最大導入ケース」と示されているのは2020年で現状の2倍、2030年で同3倍の導入が行われたケースである。太陽光発電が大きく拡大し、2030年の最大導入ケースでは、新エネルギーが11.1%を占める見通しである(表2)。
 
table2      表2 長期エネルギー需要見通しにおける新エネルギー導入量
      出典:「長期エネルギー需給見通し」資源エネルギー庁 2008年5月
      原油発熱量:38.7[MJ/l]、電力の一次エネルギー換算係数:9.0[MJ/kWh]
      設備利用率:12%(PV)、20%(WT)として算出
 
 
 メガソーラと蓄電システムの採用動向
 
 設備規模で1MW(1,000kW)以上の太陽光発電設備が文字通り”メガソーラ”と呼ばれている。
 計画の主体は、①地域の電力会社、②ソーラセルのメーカー、③電力機器メーカー、④県や市などがあり、またこれらが共同した計画が多いことが特徴である(表3)。特定の電力会社に入らない宮崎メガソーラのようなケースもあるが、大量の電力の発生は受け皿としての地域電力系統が不可欠であるため、電力会社と連携しているケースが多い。計画規模は単独では13MWの東京電力扇島太陽光発電所が最大であるが、1MW~数MWにわたって多様な計画が示されている。1MW設備の実際の年間発電量は地域やソーラセルの特性によって多少異なるが、一般には100~110万kWh/年が1MWとされている。
 それぞれの計画における蓄電システムの導入計画の有無を示した。東京電力・扇島ではNEDOの研究成果による系統連系技術を導入し、関西電力・堺ではニッケル水素蓄電池による周波数安定化技術を導入しているが、いずれも短周期対応の技術内容であるため、長周期対応やタイムシフトのための蓄電システムは採用していない。
 
table3               表3 国内メガソーラー計画(2010年段階)
 
 
 NEDOの系統連系蓄電システムの研究
 
 自然エネルギーの利用には蓄電池の役割が重要となる。現在、最も総合的に自然エネルギ一発電の系流連系と蓄電システムの研究開発を推進しているのは、NEDOの系統連系円滑化システムの研究である。蓄電デバイスのタイプは、キャパシタ、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などであり、相互補完的に蓄電システムをカバーする関係である。
 具体的な進行状況は、表4の蓄電デバイス(Ah)と蓄電モジュール(kWh)に示したが、リチウムイオン電池に関してはセル(単電池)のみならず、”蓄電モジュール”の開発まで進展している。
 
table4            表4 NEDO系統連系蓄電システム研究の概要
         (資料:NEDO蓄電技術開発平成21年度成果報告会資料より)
 
 
 自然エネルギー蓄電用リチウムイオン電池
 
 自然エネルギー蓄電用のセルとセルモジュールに関して、NEDOの成果報告データを基に表5にまとめた。現在、自然エネルギー蓄電を目標としたセルの開発はこのプロジェクトのみであり、セルの特性や容量目標が設定されている。
 
table5            表5 最近の自然エネルギー蓄電用リチウムイオン電池
              (資料:H21 NEDO蓄電技術開発成果報告)
 
 
 個別に見ると川崎重工(株)がニッケル水素電池で実績をあげ、他のメーカーは新規開発のLiBで開発を進めている。LiBの正極はスピネルマンガン系(容量対応)、負極は人造黒鉛系にハードカーボンの混合系(サイクル寿命対応) で、エネルギー密度やパワー密度ともに正極・負極の構成において十分なレベルにあり、性能面で不足はない。いずれのセルも基礎的な安全性試験はクリアし、モジュール段階の検証へ進んでおり、最終ユニットでの実用イヒ試験は九州電力と北陸電力でそれぞれ実施されている。
 
 NaSの動向
 
 風力発電や太陽光発電の蓄電ではNaSが先行しているため、LiBとNaSを比較した。NaSは東京電力が日本碍子と共同開発したシステムである。NaSが他の蓄電池とは異なるのは、開発のはじめから電力系統とのシステム化を前提としており、小型二次電池の大型化ではない。また”電池”と称しているが、外観は化学プラントであり、施設の重量は数十トンに及び可動性がない。電力の負荷平準化やピークカットのような、数時間から半日単位の蓄電/放電の繰返しであり、系統発電(火力、水力など)の容量に相当するMWクラスの大容量となる。メガワット(MW)以上のNaSは、太陽光発電、風力発電のいずれにも導入実績があり、数例で稼働している(表6)。
 
table6                   表6 NaS電池システム
 
 
 LiBの動向
 
 LiBは、現在、EVなどの自動車用途で大型セルの開発が進んでいる。表7に示した3社のセルの容量はいずれの10Ahクラスであり、このまま実用セルとすることも可能な容量である。開発はモジュールの段階まで進んでおり、単なる試作研究ではないことを示している。
 
 table7    表7 最近の自動車用高性能リチウムイオンセル
    成果:出力特性、容量特性のアップ、その高温での安定充放電とサイクル特性を確保
    今後の検証:安全性、寿命、コスト、モジュールでの検証
    (資料:H21 NEDO蓄電技術開発成果報告)
 
 
 開発の成果としては、出力特性、容量特性のアップ、高温での安定充放電とサイクル特性の向上などであるが、このために正極と負極の材料の選択はかなり多様化している。今後の検証課題としては、安全性、寿命、コスト、モジュールでの検証がある。セルの特性は自動車用と自然エネルギー蓄電用に根本的な差異はなく、それぞれの用途でエネルギー特性またはパワー特性重視といった選択はあるとしても、セルの設計パラメーターの調整で設計が可能な範囲である。
 LiBはいずれの用途でも、コスト、安全性、寿命などの諸特性を満たしてゆくと、ほとんど同じ材料系やセル設計に集約されるものと考えられる。
 
 自然エネルギー蓄電用LiBの課題
 
 自然エネルギー蓄電の開発課題を表8にまとめた。実際に使用する電池ユニットの容量は、セルの組合せ(並列、直列)でかなり自由度があるので固定的に考える必要はない。性能に関しても、既存の正極・負極系でセルを設計した場合は、エネルギー>150Wh/kg、パワー>2,500W/kgのレベルは平均的に達成可能である。さらに高性能を目指した多元系正極や合金系負極などの新規材料は、材料の供給なども含めで、大型セルの製造に適応するには今後もなお時間を要するものと思われる。セルの動作特性としての回生対応や高速充放電は、電極構造の設計やトータルの電気システム設計が入る問題であり、実用の大型LiBのユニットでは総合的な開発を進めるなかで段階的に進んでゆくと考えられる。
 
table8            表8 自動車と自然エネルギー蓄電用途の課題
 
 
 また、コスト問題はそれぞれの用途の需要や経済性の要因が入るが、需要側か製造側かのどちらかに一時的には負担が発生する性格のものである。これはエネルギ一政策や国策のテーマであり、技術はそれをサポートしてゆく立場にあろう。
 
参考文献
自然エネルギー蓄電用LiBの開発動向(シーエムシー・リサーチ、2011年3月発行)
 


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