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「工業材料」(日刊工業新聞社)2012年2月号に掲載

                           ㈱シーエムシー・リサーチ

 1990年代初めに製品化された小型(民生用) リチウムイオン二次電池は、その後20年近くの技術開発を積み重ね、その間のコストダウンや度重なる安全性問題のクリアなどの試練を経て、社会生活に不可欠なインフラとして定着してきた。そして2010年を起点として、EV、 HVなど自動車、自然エネルギー蓄電あるいは電動工具やアシスト自転車などの分野で、これまでとは桁違いの容量と数量の電池(セル)の生産が想定されている。
 この段階においてリチウムイオン電池は、さらなる”コストダウン”、”ライフ(製品寿命)”および”安全性の確保”が重要課題として求められている。これら3項目は個々の技術開発が先行することは言うまでもないが、それらを統一的に比較・評価するためには何らかの標準や規格(スタンダード)としての試験方法が不可欠である。”技術開発 と製品が先か”、あるいは”試験規格が先か”は議論の余地が多い。またリチウムイオン電池(セル)の応用開発の進展に対応しての試験規格や安全性試験の標準化が求められているが、現状の試験規格はその上記のニーズに対応しているとは言いにくく、かなりアンバランスな状況にある。
 過去にISOやRoHS、WEEEなど各種のEU指令への対応において、日本は”後追い”となって、慌てた苦い経験がある。リチウムイオン電池の場合も、技術開発において先行しているものの、規格などにおいて後塵を拝する事態も想定される。
 以下に、上記の諸問題の理解を助けるために、国内外の関連質料を基にポイントをまとめた。
 
 規格・規制のマップ
 
 表1に規格などのマップを示した。このような表にまとめる場合の難しさは、リチウムイオン電池(セル)関する規格、規制などが多種多様であることに加え、リチウムイオン電池(セル)の技術進歩や、応用分野の急速に拡大する中での規格などの新設や見直しがあり、さらには国際的な主導権争いが潜んでいることである。これらは、実務担当者の混乱の種とも言えるものだが、ここに”(列)対象用途1~5″と”(行)規格内容A~Fの項目に従って整理することで分かりやすくまとめた。
 
table1        表1 リチウムイオン電池(セル)に関する規格などのマップ
 
 
 マップで空欄の部分は、現在の時点では規格のないことを示しているが、同時に、今後これらの分野のニーズが伸びてくれば新たな規格が制定される領域であることを示している。以下に最も汎用的なUL、UN、JISおよびのDINの4規格に関して、最近の動向を示した。
 
 UL規格の動向
 
 UL規格では、材料・装置・部品・道具類などから製品に至るまでの、機能や安全性に関する標準化を目的とした製品安全規格を策定し、同時に評価方法を設定、実際の評価試験を実施する。試験対象となった製品に、何らかの保証を与えているわけではないが、結果として広範囲な品質を認証していることになる。
 表2にUL 1642の具体的な項目を示した。ULの安全性試験の項目は基本的な範囲をカバーしており、ほかの規格の下地となっている。JISなどの工業規格との違いは、ULには二次電池の基本的な測定方法や特性の評価方法が含まれていないことである。
 
table2       表2 UL 1642 Standard for Safety Lithium Batteries 4th edition
 
 
 これはULがセルないし電池の商品としての輸送と保険を前提としているためであろう。UL 1642の試験はセルや電池の”破壊試験”であり、”非破壊試験”であるJIS C 87I2ほかの容量測定詰験などとは根本的に異なる面がある。
 すでにULはEV用途などの大型セルを対象としたUL2580、UL2271、UL1973などを開発中とアナウンスしているが、100Wh以上の特性の異なる大型セルの試験が現段階でカバーできるのかという問題がある。この点はJlS、IEEE などにも共通している。工業規格や試験規格は生産実績の中で得られた技術が反映されるべきで、”始めに規格あり”となっては製品と解離した試験規格になりかねない。最近の欧米の規格制定の動きはこの点での不自然さが見受けられる。
 
 UN規格の動向
 
 UNの安全試験の頭目と実施方法はULと共通で、T1 高度シミュレー・ション、T2 加熱、T3 振動、T4 衝撃、T5 外部短絡、T6 衝突、T7 過充電、T8 強制放電の8頭目である。

 UN規格は輸送の安全維持が目的であり、リチウムイオン電池(セル)自体の品質や製品規格ではない。要求事項(試験クリアの条件)においても、試験終了後6時間以内に破裂・発火がないこと、6時間以内に破裂・発火がないことなどの頭目が特徴である。

 リチウムイオン電池はクラス90分類(表3 参照)に該当し、セル(単電池)およびパック(組電池)のWh容量に応じた区分があり、20Wh以下(セル)、100Wh以下(組電池)は危険物には非核当であるが、表示や搭載貨物の重量面では危険物要素と同等の扱いを受ける。リチウムイオン電池(セル)に関しては2009年に改訂がなされており、従来はLi金属のg数換算(一次電池の規定を準用)での区分であったが、上記のWh値による区分となった。
 
table3        表3 UN規格(国連危険物輸送基準勧告)(オレンジブックⅢ)
 
 
 JIS規格の動向
 
 JIS規格は、小型ポータブル電池に関しては広範囲に特性試験と安全性試験規格をカバーしている。電気用品安全法はJIS C 8714(表4)の改訂部分の安全性試験方法が基礎となっている。
 
table4         表4 JIS C 8714 携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池
 
 
 単電池(セル)に関する試験では、外部短経と圧壊に関して、C 8712とC 8714に重複が見られるが、後者は電気用品安全法への対応であり優先的に考えるべきであろう。組電池を対象とした試験は、電気的試験は外部短絡、強制内郭短絡および過充電保護であり、いずれも新しいC 8714である。
 リチウムイオン電池(セル)関係のJISは大部分が純粋な工業規格ではあるが、電気用品安全法と連係した部分JIS C 8714は結果的に安全性の認証システムの機能を果たしているといえよう。
 ULの改訂と適用拡大と同様に、JISについても改訂と迫加の動きがあるが、その際には現行のC 8711、8712、8713および8714との整合性や、UL、IEEE、IECなどとの整合性や相互補完の関係などが必要と思われる。
 
 DIN予備規格とドイツの認証機能
 
 ドイツのDINはASTMやJISと並んで、最も良く整備された工業規格である。最近はEUの機能をサポートする意味からも、ISOなどの国際規格との互換性が重規されている。リチウムイオン電池(セル)に関してはドイツに国内メーカーが少ないことから、規格制定の取組みが遅れ気味ではあったが、電動自動車においては有力自動車メーカーが存在することから、独自にDINを制定して、DVA(ドイツ自動車産業協会)および下記のVDE(ドイツ電気技術者達合)と連係して2008年に下記の”予備規格”を提案している(図1)。
 
fig1             図1 DIN規格 VDEV0510-11(予備規格)
 
 
 DINでは、VDEの認証機能と一体となった形で提案されている。リチウムイオン電池(セル)とこの認証制度の接点は、リチウムイオン電池(セル)が化学電池であるという特殊性があり、ほかの電子部品の認証とは大きく異なるためと考えられる。
[TUV Rheinland ドイツによる認証と事例]

 TUVはドイツを拠点として、電子機器と自動車などの安全性試験と認証を行う第三者認証機関である。米国中心のULに対してTUVは欧州に拠点がありリチウムイオン電池(セル)メーカーや自動車メーカーにポテンシャルがあるものと推定される。
 図2は日本のメーカーがTUVの認証システムを取得した事例である。「安全性な蓄電池の証」と表記されているが、この意味する内容は今後の課題であろう。
 
fig2            図2 TUV Rheinland(R) ドイツ認証例
 
 
 今後の期待
 
 2011年3月11日の東日本大震災と津波で、沿岸部で流された自動車に相当数のHVが含まれている。HVのほぼ全数が1.3kWh(DC202V)のニッケル水素電池を搭載したPRIUS(トヨタ)である。これまでの情報では、津波(海水)によるHVの特段の事故や障害に関する情報はないが、HVやEVの普及とともにリチウムイオン電池の安全性も重要課題となっているところでもあり、メーカーでも被災車輌を回収して内容解析を行っていると聞くので、この経験が今後の安全性試験や規格の制定に活かされることを期待する。図3に中・大型リチウムイオン電池(セル)の現状WPを模式的に示した。多くの問題が相互補完的に進展することが期待される。
 
fig3           図3 中・大型リチウムイオン電池(セル)の現状WP
 
 
参考文献
1)「Liイオン二次電池の製品規格&安全性試験2011」(シ一エムシー・リサーチ、2011年9月)
 


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