化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社)2011年3月号に掲載

                             ㈱シーエムシー・リサーチ

 
 はじめに
 
 エポキシ樹脂は、接着性、強度、靱性、電気特性、耐溶剤性に優れ、硬化時の体積収縮率が低いことから接着剤、塗料、電子・電気、土木建築用途など多彩な用途に用いられている。とくにエレクトロニクス用途などの先端材料において幅広い用途展開がはかられ、その存在感を高めている。
 近年は電気、電子用途の需要が拡大するなかで、腐食を防ぐため塩素含有量を少なくしたグレード、耐熱性を高めたグレード、難燃性を付与させたグレードなど、多彩なバリエーションを待たせた特殊品が増加しており、これらの特殊エポキシ樹脂に対する各エポキシ樹脂メーカーの開発競争が活発化している。
 本稿では、エレクトロニクス分野を中心にエポキシ樹脂の最近の市場動向をまとめた。
 
 樹脂・硬化剤市場
 
エポキシ樹脂
 エポキシ樹脂の需要は、生レジンベースで表示されているエポキシ樹脂工業会の統計でみると、17万5,000tレベルを維持してきた出荷量が、2008年は15万3,000t、2009年はさらに落ち込み、11万2,000tレベルとなったが、2010年は回復傾向がみられる。
 用途別出荷比率でみると、2009年は塗料が34.3%、電気・電子が31.7%、土木・建築、接着剤他が18%、輸出16%であったが、これは工業会のインサイダ一の集計分であり、フォーミュレーター向けやアウトサイダーおよび輸入量は含まれていない。実査による推定でみると、2009年は内需149,000トン、輸出15,000トン、計l64,000トン、2010年は回復傾向にあり、内需156,000トン、輸出16,000トン、計172,000 トンと予想される。
 国内のエポキシ樹脂需要は、一定の需要量は維持されているものの、新規需要はあまり期待できない状況にある。こうした中で国内メーカーが需要拡大を狙うには、ユーザーニーズに対応した特殊化・高機能化製品の開発が求められる。需要を左右するエレクトロニクス分野において、耐熱性、難燃性、耐食性等の改良、改質が進められ、今後の期待は大きいものがある。同時に、潜在市場の大きい中国向けを中心とした特殊品の輸出拡大や特殊エポキシ樹脂を柱に国内と海外市場のバランスを取りながら海外への専業展開が求められている(図1)。
 
fig1               図1 エポキシ樹脂の需要予測
 
 
エポキシ樹脂硬化剤
 エポキシ樹脂の主な硬化剤には、酸無水物、ポリアミン、ポリアミド、フェノール類などがあり、目的(用途)に応じて使い分けられている。
 酸無水物類は、硬化に高温(100~150℃)と長時間を必要とすることや、吸湿により遊離酸が生成しやすい欠点があるものの、電気絶縁材料向けには欠くことのできない硬化剤である。その他硬化剤としては、ポリアミド類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、フェノール類、イミダゾール類、ポリメカプタン類などさまざまなタイプがあり、特殊製品を含むと1,000種類近くのグレードが上市されている。
 硬化剤の需要は、エポキシ樹脂の需要と連動しており、2007年30,000トン、2008年26,500トン、2009年は大幅に減少し、20,750トンとなったが、2010年は回復傾向にあり、年率5~6%の上昇が予想される。品種別では、2009年実績でみると、酸無水物系11.1%、ポリアミド系33.3%、脂肪族アミン系24.1%、芳春族アミン系2.6%、フェノール系22.7%の比率となっている(表1)。
 
table1      表1 硬化剤の需要量推定 (単位:トン)
     (資料:化学工業日報 業界調べ、2009年、2010年はシーエムシー・リサーチ推定)
 
 
原料市場
① ビスフェノールAの需要
 国内のビスフェノールAの生産は、2009年は432,929トンで前年比マイナス18.9%と大幅な減少となったが、2010年の前期の伸びからみて年率10~11%の大幅な増加が見込まれる。ビスフェノールAの国内需要に占める2009年の構成比は、PC(ポリカーボネート)樹指向け73.6%、エポキシ樹指向け18.1%、その他8.3%とみられ、PC向けが中心となるが、エポキシ樹脂向けは特に塗料用途を含めた汎用向けの落ち込みによる影響が大きかった(表2)。
 
table2       表2 国内の需要量 (単位:トン)  (シーエムシー・リサーチ推定)
 
 
② エピクロルヒドリンの需要
 エピクロルヒドリン(ECH) の大半は、ビスフェノールAとの共重合により、エポキシ樹指向けに製造されている。その他、合成グリセリン、イオ ン交換樹脂、界面活性剤、溶剤など幅広い応用がみられる。
 ECHの2008年の生産量は、106,947トン、2009年は75,259トンで前年比30%減と大幅な減少であった。これは内需の不振が大きく影響したもので、特にエポキシ樹指向けの落ち込みが生産、輸入面に大きく影響した結果である。ECHの好調が続くとみられている海外では、中国、インドの需要が旺盛であるが、ダウの新設プラントが稼働(年産能カ12万t)すると、日本からの輸出も大幅な減少となることが予想される。
 一方、最近になってグリセリンを原料とするECHの新製法が開発され、米国ソルベイは年産1万トン能力の設備を立ち上げ、国内でもダイソー(パイロット・プラント)、鹿島ケミカル(200tのセミプラント)による量産化技術が確立されている(表3)。
 
table3     表3 ECHの国内需要量 (単位:1,000トン) (シーエムシー・リサーチ推定)
 
 
 製品市場
 
半導体封止用エポキシ材料
 半導体封止材料の主要材料であるエポキシ樹脂モールディングコンパウンドは世界規模で大量に使用されているが、半導体も高集積化と表面実装(SMT)技術の向上に伴う対応が求められており、これらに使用される樹脂とフィラーは難燃化や低α線用溶融シリカの改良などが図られている。
 特に薄型化、小型化、軽量化が進められているSMT向けには、Pbフリー、リードフレームのファインピッチ化といった用途が増加し、エポキシ樹脂封止材にも限界が出ており、封止材メーカーは量的な販売増より技術改良による付加価値材料を中心に展開を計りつつある。
 封止材料メーカーは一時期、電子・電気、通信機器、自動車産業の好調を目標に大規模な増設を行ってきたが、封止材料の生産が中国を中心にアジアにシフトした関係から早くよりアジア地域に海外工場を進出させており、現地対応や輸出メリットを生かしたアジア拡大戦略を打ち出してきたため、国内需要は停滞を余儀なくされている。
 表4に国内の封正村(モールディングコンパウンド)市場規模を示したが、2009年以降は海外生産、販売の比率が高まることが予想される。
 
table4    表4 封止材(モールデイングコンパウンド)の市場規模(2006~2010年)
      (単位:トン:コンパウンド)
    ※ 国内需要には、国内生産、輸出および一部輸入品が含まれる
    ※ 表示はコンパウンド・ベースである      (シーエムシー・リサーチ推定)
 
LED封止材用エポキシ材料
 LEDチップを封入し、基板に接続しやすくしたものをLEDパッケージと呼ぶ。構造は砲弾型と表面実装型があり、砲弾型LEDパッケージは、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂でチップを外部から保護するとともに、LEDチップと空気の中間の屈折率を有することによりチップから光を効率よく取り出せる。
LEDは、既存の光源からの代替を図ることから大光量が求められるようになり、これに伴う大電流化が進んでいたことでLEDチップ周辺の樹脂や蛍光体などの材料にかかる負荷も大きくなっている。LEDチップからの放射光の増加や注入電流密度の増加で発熱量が増加するにつれ、封止材料の変質が進み、LEDの劣化が加速されてくる。
 通常のエポキシ樹脂はLEDチップの周囲温度が150~200℃レベルとなり、光束維持率70%を限度と考えると、その寿命は1,45O時間になるといわれている。この改良を目的にエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの耐光性や耐熱性の向上、あるいはLEDパッケージの放射性の改良が進められている。
 LED封止材は、既存のエポキシ樹脂の中でも、近UV光に比較的強いグレードが上市されるようになった。現在のLEDでは8O℃レベルでLEDパッケージの放熱対策を行えば大電流でも大きな変色を抑制できるとしている。
 また、熱変質の少ないシリコーン樹脂を用いて封止材の寿命を改善できることから、ユーザ一指向性としでエポキシ樹脂との使い分けも見られる。それでも両樹脂の耐熱性もやや低く、樹脂単体使用では1OO℃を長時間クリアする(サイクル:寿命)ことは難しく、既存の材料を生かすためには放熱対策が求められ、さらにエポキシ樹脂とシリコーン樹脂の弱点をカバーする複合材料の開発も行われてきている。(表5、表6)
 
table5        表5 LED封止材の市場規模
        注)両樹脂ともコンパウンドベースで表示した。
          なお、シリコーン樹脂の中にLEDパッケージ用エンキャップを含む。
 
 
table6      表6 パッケージの市場規模 (単位:トン) (シーエムシー・リサーチ推定)
 
 
アンダーフィル材用エポキシ材料
 ワイヤーボンディング、フリップチップボンディング等で基材へ一次実装された集積回路は、外力・応力に対して非常に脆弱で少々の力で容易に破断してしまうケースが多い。また、湿度や温度に対しても弱く、そのままでは腐食などを起こしてしまう。こういった問題の解決策として一般的な手法がアンダーフィリングで、用いられる液状硬化性樹脂をアンダーフィルと呼び、一般的にはエポキシ樹脂が用いられる。アンダーフィル材は半導体後工程において半導体IC電極とパッケージ基板電極間を金属接合、あるいは圧接接着する前にパッケージ基板上に塗布する。形状はぺースト状のものとフィルム状のものがある。
 市販されているエポキシ樹脂は二液型が多いが、アンダーフィルに用いられるエポキシ樹脂は一液型で、主剤と硬化剤を混ぜた状態で出荷され、リフロー工程で硬化させるものが一般的である。
 この材料は比較的新しく採用された材料で2007年頃から小型、狭ギャップ、ピッチ向けのフリップチップの封止材として試験導入されたものだが、フリップチップ用のアンダーフィル材は、モバイル機器、小型電子機器を中心に急速に普及が始まっている(表7)。
 
table7         表7 アンダーフィル材(NCP、NCF)の市場規模 (単位:トン、m2)
          ※ NCF(Non Conductive Film)、NCP(Non Conductive Paste)
 
 
ダイボンディング材料
 高密度実装を実現するダイボンディング材料は、ぺースト状(主にエポキシ樹脂接着剤)とフィルム材料があげられる。これらぺーストやフィルム状材料が採用される背景には、携帯端米機器、デジタル家電等に用いられる半導体パッケージの小型化、薄型化、高容量、多機能の要求が高まり、複数個のチップを積層するスタックドマルチチップパッケージの増加に対応する必要性から、ダイボンディング材料が開発され、実用に供されてきたことがあげられる(表8)。
 
table8           表8 ペースト・フィルム材料市場規模 (単位:トン)
 
 
導電性材料
 エレクトロニクス向けの導電性付与材料は、ハウジング材やケーシングは別として、電子部品(半導体関連部品)をメインに、導電性ぺースト、接着剤、塗料タイプが中心に使用されている。
 
 中国市場
 
 最後に中国市場について述べる。中国のエポキシ樹脂の生産は、従来は中小規模メーカーによる生産が多かったが、2008年以降はダウケミカルなど外資系企業の生産能力増強およびブルースター(藍青集団)、宏昌電子材料などの中国メーカーの新規参入がみられ、生産能力の大幅な増加がみられる。
 2009年は世界的経済の悪化から中国でも操業短縮の動きがあったが、後半よりエレクトロニクス、自動車産業の好調に支えられ、国内生産は回復してきている。
 日本国内では、これまで中国の低価格品におされ、国内需要の15%程度のシェアを占められるまでに至ったが、最近は中国メーカー品と国産メーカー品との価格差は減じてきており、国内需要先では中国品エポキシ樹脂の見直しが広がる可能性も強まっている。一方、中国メーカーも自国内の需要先への対応のため外資系メーカーを除くと、これまでのような輸出依存型から内需重視に転換してきているように思われる。
 現状は国内需要をみた場合、需要を喚起する要因は多くはないが、エレクトロニクス分野の環境対策(無溶剤化、難燃対応など)と品質向上に関連する分野に需要拡大が見込まれ、輸出でも中国市場における特殊品への対応が需要拡大を図るうえで不可欠の要素となっている(表9)。
 
table9         表9 中国のエポキシ樹脂の需要バランス (単位:1000トン)
          (シーエムシー・リサーチ推定、貿易は通関統計を基に作成)
 
 
参考文献
「エポキシ樹脂市場の徹底分析」(シーエムシー・リサーチ、2010年12月発行)
 


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