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「工業材料」(日刊工業新聞社) 2003年3月号に掲載

                         ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                            須藤正夫
 

 
 急成長するシュリンクラベル市場で姿を消す塩ビラベル
 
 シュリンクラベルは延伸フィルムを熱収縮し,容器に密着させ,ラベルにミシン目をつけることで,廃棄時に容易に剥がすことが出来る。景気が低迷しているなかでシュリンクラベルは数少ない包装資材の成長商品である。この理由は長い間自主規制していた小型PETボトルが1996年に解禁されて以来,需要が爆発的に伸びたことによる。(表1)
 

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   表1 PETボトルの需要推移 (単位:千トン)(文献1)  注)2002年は予測


 
 このように急成長が続くシュリンクラベル市場で,姿を消しつつあるのが1990年代前半までがシュリンクラベル市場で圧倒的なシェアを占めていた塩ビシュリンクラベルである。
 1996年時点のシュリンクラベルの市場規模は,1万4,000トンでうち塩ビが7,000トン,50%のシェアを握っていた。2002年は市場規模が1996年比で倍増しているが,塩ビのシェアは3%を割り,OPSが約65%,PETが約32%と供給構造が一変した。(図1)
 
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   図1 シュリンクラベルの種類別需要推移


 
 本稿では3樹脂の競合関係を述べるが,これ以外にポリオレフィン系が1,000トン台の需要があり,また,2002年に日本ゼオンがフィルムメーカーと提携し,新たにジシクロペンタジエン系樹脂でシュリンクラベル市場の開拓をはじめた。
 シュリンクラベルメーカーは三菱樹脂,シーアイ化成,グンゼ,東洋紡績の4社で市場の大半を押さえている。東洋紡績を除く3社は塩ビのシュリンクフィルムメーカーで,塩ビの代替としてOPSなど他素材を開拓してきた。日本カーバイド,信越化学も有力メーカーであったが,1999年から2000年にかけて相次いで撤退している。
 東洋紡績はポリエステルの総合メーカーで,フィルムは包装分野が得意で,PETシュリンクフィルムの特許が2000年に確立した強みもあり,シェアを拡大している。(図2)
 
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   図2 シュリンクラベルのメーカー別販売量


 
 三菱樹脂,グンゼの両社はPETシュリンクフィルムも生産しているが,東洋紡績の特許が確立したことから,主力をOPSに置いている。
 
 シュリンクラベルの需要構造を変えたPETボトル自主設計ガイドライン
 
 塩ビシュリンクラベルが激減した理由はPETボトルのリサイクルが円滑に進むよう制定された「第2種指定PETボトル自主設計ガイドライン」(文献2)(以下ガイドラインと略)の影響が大きい。ガイドラインの原則基準で「PVCを含有するラベル,印刷インキは使用しない」と定められ,市場規模が大きく急成長している同分野で姿を消し,OPS,PETが需要を拡大した。
 茶系飲料など紫外線により劣化し易い飲料ボトルはこれまでグリーン着色されてきた。ガイドライン制定後は透明PETボトルにフルシュリンクラベルを使用することで紫外線バリアー性を付与する方法が主流となっている。この結果,使用面積が増加し,シュリンクラベルの市場規模拡大に貢献している。
 フルシュリンクラベルに要求される特性は低温収縮性と「剥離しやすい構造のラベル」すなわちミシン目カット性である。
 以上のようにガイドラインがシュリンクラベ選択に大きな影響を与えているが,PETボトルの構造変化も見逃すことができない。(図3)
 
fig3

   図3 PETボトル清涼飲料の種類別消費量


 
 シュリンクラベルの素材選択に影響を与える要素はボトルの種類と容量である。
 PETボトルのアセプティック化の進行はシュリンクラベルの素材選択に大きな影響を与えた。
 アセップティックラインは常温で充填されるため,ボトル用樹脂は非耐熱グレードが使用される。ボトルの耐熱性が低いことから収縮時の加熱温度も低温が要求される。
 アセプティック用ボトルの樹脂価格は耐熱グレードと比較すると20%程度安く,飲料の風味を損なわないなど大きなメリットがあり,大手ボトラーを中心に導入が進んでいる。
 
 成長を支える改良努力~OPS,PET
 
 OPS,PETシュリンクラベルはそれぞれ強みと弱みがあり双方とも弱点の改良が著しい。
 OPSとPETシュリンクフィルムの概略の比較を(表2)に示す。
 
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表2 OPSとPETシュリンクラベルの比較
  (文献3) (注:⇒ 改良方向)


 
 【収縮仕上がり】
 OPSシュリンクフィルムが優れており,収縮安定性も良いことからホットパック用部分ラベルで優位性を発揮している。

 【低温収縮性,収縮速度】
 低温収縮性はアセプティクライン用とフルラベル用途に不可欠な要素でPETが優れている。OPSは低温収縮性,収縮速度の改良が行われ,現在はアセプティクライン用部分ラベルに採用されシェアを拡大している。フルラベル用はこれまでの透明HIPSでは低温収縮性に限界があり,PETが市場を制していた。
 2000年夏,A&Mスチレンが低温収縮性を大幅に改良したグレードを開発,OPSシュリンクフィルムもアセプティックラインで採用が拡大した。

 【自然収縮性】
PETが最も優れ,これに塩ビが続いており,OPSは最も劣っていたが,OPSシュリンクフィルム各社はこの改良努力を行い,現在は塩ビ並に低減している。

 【ミシン目カット対応】
 PETは強度が優れていることがミシン目対応には不利な物性という性格がある。OPS側が優位性を強調する大きな特性である。PETシュリンクフィルム各社はミシン目特性の改良を積み重ね,現在はミシン目カット対応グレードが主力になっている。

 【分別】
 PETシュリンクラベルはボトルと同一素材であるで,分別時にラベル不着したインキに課題があったが,東洋紡績は大日精化と洗浄工程でフィルムと分離できるインキ「ダイエコロ」を共同開発,リサイクルを容易にするシステムを構築している。
 
 シュリンクラベルの成長を支えるキイテクノロジー~共重合技術
 
 以上のようにOPS,PETとも弱点の改良努力を行っているが,キーになっているのは共重合技術である。OPSはホモのGPPSを使用されることはなく,SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)のブロックコポリマーである透明HIPSが基本で,前記のように改良努力が行われている。PETもグリコール成分の一部をEGからNPG(ネオペンチルグリコール),CHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール)などに置き換えて加工性を大幅に改良している。
 これらの改良努力を積み重ねた結果,塩ビを代替することが出来,アセプチックラインの低温収縮,充填スピードの高速化に伴う収縮速度改良など新しいニーズに対応出来たことが,現在の需要を獲得できた源泉である。

 参考文献
1)PETボトル協議会
2)PETボトル協議会リサイクル推進協議会  1998年制定
3)須藤正夫:非塩ビ系ソフトポリマーの新技術 シーエムシー出版(2001)

             ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                須藤正夫(すどうまさお)