化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社)2006年5月号に掲載

                        ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                           須藤正夫
 

 
 TDI74%、MDI53%、群を抜く輸出依存率
 製品は内需直結、高付加価値製品を重点開発

 
 電気・電子機器の国内需要が成熟したことや生産の海外移転で化学品原料やポリマーなどの川下製品が低迷しており、海外市場の開拓が中心課題となっている。
 化学品中、TDI(トリレンジイソシアネート)が最も輸出比率が高く、2004年は出荷量の74%を占め、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)も50%を越えている。他の樹脂原料ではスチレンモノマー40%、ビスフェノールA28%、塩ビモノマー22%でイソシアネート類の輸出比率が突出している。
 輸出量は2004年まで中国向け(香港経由を含む)の増加にほぼ並行しており、地域別シェアはTDI、MDI(C-MDI+P-MDI)とも50%を上回っている。
 一方、ポリオールの中心であるPPG(ポリプロピレングリコール)は輸出比率が10%で低いが、増加している。PPGの輸出比率が低い理由は中国の生産能力が年産50万トン台でイソシアネート程需給が逼迫していないことによる。
 TDI、MDIの中国向け輸出量は2004年がピークで2005年はいずれも減少している。中国がウレタン原料の需要が増加した背景は筆者が「工業材料」2005年12月号(6頁)で紹介したので重複を避けるが、自動車工業など需要産業が飛躍的に発展していることが大きな理由である。
 同時に、欧米のイソシアネートメーカーが大型設備建設計画を進めており、輸出攻勢をかけたことが日本の輸出量が減少した理由と推定される。大型設備建設が竣工し、稼動を開始すると日本の輸出量は大幅に減少することが予測され、日本のウレタン業界は体質改善が求められる。
 他の輸出比率が高い化学品も現地生産が増加すると業界の体質を変えることが要求され、ウレタン業界は内需直結型や高付加価値製品の開発に力点を置いている。ウレタン業界の変化は他業界の先行指標と思われ、本稿ではこれらの視点から解説する。
 
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   表1 ウレタン原料の需要構造 (単位:千トン)
    (出典:「2005年版ポリウレタン原料製品の総合分析」)


 
table2

  表2 イソシアネートの輸出推移 (単位:千トン)(出典:「日本貿易月表」財務省)
    注:C-MDI→クルードMDI,P-MDI→ピュアMDI


 
 ウレタンフォームは「軟高硬低」、全体で横ばい
 軟質は低反発弾性フォームで輸入製品を差別化

 
 ポリウレタンは他樹脂と異なり、用途が多岐に渡り、全体像を把握することができないが、関連団体の統計や「化学工業統計」(経産省)などから需要構造を推定した。
 フォーム全体の需要はこの10年横ばいで、非フォームが安定成長している。軟質フォームのピークは1997年の190,000トンで、2004年は同年水準をほぼ維持している。一方、硬質フォームは減少傾向が続いており、ウレタン業界では「軟高硬低」の用語が定着している。
 「硬低」の原因は電気機器、特に電気冷蔵庫の海外生産移転の影響が大きい。電気冷蔵庫の生産台数は1999年が454万台、2004年302万台と激減している。大型化が進行し、1台当たりの使用量が増加したのでウレタンの需要減は小幅に留まったが、電気冷蔵庫の海外生産が定着しているので回復の見通しはない。電気機器用途は硬質フォーム全体の35%前後を占めており、この数年、40,000トン前後で推移している。
 土木・建築分野は内需直結型の用途で工業製品と異なり、需要が海外移転しないので、フォームメーカーは重視している分野である、市場規模は1990年代、電気機器分野より大きかったが、1998年以降ほぼ同水準となった。この分野は新設住宅着工件数に大きな影響を受ける。1996年までは150万~160万戸の着工件数であったが、1997年に130万戸台に減少し、1998年以降120万戸前後で推移、これに伴って、硬質フォームの需要は1996年の57,000トンから1998年には42,000トンへ大きく落ち込んだ。2002年を底に2003年以降回復基調にある。
 軟質フォームは車両の需要が約70%を占めており、自動車の生産に大きな影響を受けている。自動車の生産台数はこの数年多少伸びているが、中国の発展が目覚しく、長期的には大きく発展する見通しはない。
 寝具用はウレタンフォームの需要が増加しているが、輸入品との競合が激しくなっている。フォームメーカーやフォームのユーザーは品質で輸入品との差別化を進めている。
 その代表例が2001年頃から普及してきた低反発弾性フォームである。低反発弾性フォームは特殊な分子構造に設計され「弾性」を抑え,「粘性」を上げたフォームで,衝撃吸収フォームの特性を持っており、密度は一般軟質フォームが20~40kg/m3に対して低反発弾性フォームは40~80kg/m3高い。
 圧縮した後,外力を取り除いた際,ゆっくり元に戻る性質がある。感触が良く,局部的な圧迫が少なく体圧が全体に分散するので血流阻害や床ずれ防止に効果があり介護用品などに需要が拡大している。
 
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  表3 ポリウレタン製品の需要構造 (単位:トン)
  (出典:「2005年版ポリウレタン原料製品の総合分析」)
  注1) 塗料、接着剤は樹脂分換算、注2) 表3に含まれていない用途もあり合計はポリウレタン全体を示すものではない。


 
 内需直結型の代表,土木・建築資材
 
 非フォーム分野では土木・建築資材の市場規模が最も大きく、2004年は89,700トンで硬質フォームの市場規模に迫っており、内需直結型の代表としてウレタン業界は力を注いでいる分野だ。ポリウレタン建材(フォームを除く)の種類は多いが、共通する特徴は①液体で作業性が良い,②硬化した塗膜性能を自由に変えられる、③常温で硬化する、④色調がカラフルにできるなどがある。代表的な用途に防水材があり、同分野の45%を占めている。防水材は1960年代に市場を形成し、1980年24,000t、1990年34,000トン、2000年40,000トンに拡大、2005年上半期も土木・建築用途全体が2%の微増であるの対し、防水材は5%増の安定成長が続いている。
 防水材に次ぐ用途はシーリング材で、2004年の需要は32,300トン、土木・建築分野の36%を占め,安定成長が続いている。
 
 高機能ウレタンの代表、TPU
 
 2004年のウレタンエラストマーの市場規模は19,700トン、1999年比25%増でウレタン製品の中で最も成長した。ウレタンエラストマーには①TPU(熱可塑性)、②TPS(熱硬化性)、③混練があり、TPUが75%を占め、需要量は1999年の10,900トン(輸出1,070トン)から2004年は14,900トン(輸出1,820トン)に拡大している。
 TPUは高い技術力が要求され、価格も高く、汎用が600~900円/Kg,無黄変タイプ1,600~2,000円、難燃タイプ。導電タイプ1,600~2,200円/kgで、市場規模は重量ではフォームと比較ならない規模だが金額ベースでは魅力ある市場だ。
 
 好調な水系ウレタン樹脂塗料、接着剤分野で市場拡大
 
 水系ウレタン樹脂は本来疎水性のポリウレタン樹脂を種々の方法で親水性を向上させ、水分散させたもので、単独で使用されることは少なくポリウレタンの物性向上に大きく寄与しており塗料、接着剤など広範な分野で使用されているが、表3の需要量に含めていないので本項で概要を紹介する。
 水系ウレタン樹脂は当初、溶剤系に比べ耐水性で劣っていたため強靱性、接着性、弾性などを生かせる繊維処理、皮革処理などに用途が限られていた。その後、水分散技術,架橋剤の研究,複合化などの技術開発によって弱点は克服され、幅広い分野へと拡大した。需要の中心は接着剤・バインダーと塗料・コーティングの2分野で、かつて需要が多かった繊維処理剤は大幅に減少している。
 
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  表4 水系ウレタン樹脂の用途別需要構成(単位:トン)


 
 以上ポリウレタン原料・製品の需要構造とその変化を見てきた。原料は輸出依存度が高いが中国を中心とする輸出市場が今後、縮小するのでウレタン業界は市場規模が小さくとも、技術力が要求され付加価値が高い品目に戦略の重点に置き、海外メーカーとの差別化を図る一方、内需直結型の用途開拓も注力する方針が定着してきた。

 参考文献

「2005年版ポリウレタン原料製品の総合分析」(シーエムシー・リサーチ2005.7刊)
「工業材料」2005年12月号 世界のポリウレタン市場を牽引する中国

 出典
 1)「2005年版ポリウレタン原料製品の総合分析」より作成
 2)「日本貿易月表」財務省

                ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                   須藤正夫(すどう まさお)