化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社)2008年6月号に掲載

                          ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
                             須藤正夫
  

 はじめに

 環境負荷軽減のため10数年前から生分解性プラスチックの開発が行われ、最近、商業プラントが稼働開始、需要が本格的に立ち上がり始めた。
 生分解性プラスチックは、生分解性があれば出発原料を問わないので植物由来と石油由来がある。二酸化炭素による温暖化防止では植物由来が優れており、近年石油資源の枯渇や石油価格の高騰から植物由来の生分解性プラスチックが発展している。
 呼称も生分解性プラスチックから植物由来プラスチック、グリーンプラスチックなどを経て現在はバイオプラスチックに定着している。
 これらのプラスチックの発展を推進するためにわが国では1989年、生分解プラスチック研究会が結成されたが、上記の流れから2007年に名称を日本バイオプラスチック協会に改称している。
 代表的なバイオプラスチックはとうもろこしなどを出発原料とするポリ乳酸(PLA)で、これらは植物由来原料の一貫生産である。
 一方、成分の一部を植物由来原料を使用した樹脂は古くからあるが、グリーンプラスチック、バイオプラスチックの範疇に入っていない。
 ナイロン610はヘキサジアミンとセバシン酸の重縮合で合成され、植物由来のセバシン酸が60%使用されている。東レが1960年代に企業化し、50年近い歴史を持っているが、最近まで環境対応型樹脂という認識はあまりなかった。
 東レは2006年から「エコドリーム」計画を推進しているが、ポリ乳酸などとともに積極的に需要拡大を行っている。
 飽和ポリエステルやポリウレタンなどにも一方の成分に植物由来原料を使用した化学製品がある。本稿では筆者が本誌2007年5月号に寄稿した「環境と中国の視点からみた化学品の需給構造変化」で取り上げたバイオ由来の化学品を中心に最近の動向をまとめる。

 デュポン バイオ由来の熱可塑性ポリエステルエラストマーを開発~「Bio-PDO」の新規用途開拓~

 飽和ポリエステル樹脂の一種であるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)は1,3-プロパンジオール(PDO)とテレフタル酸が原料だが、PDOはシェルがエチレンオキサイド法、デュポンがバイオ法で開発している。デュポンのブランドは「Bio-PDO」でバイオを強調している。
 デュポンはこれまで石油由来であるアクロレイン法のPDOをデグサから購入していた。英国のテイト&ライル・シトリックとバイオ法の共同研究を行いバイオ法の製造技術を確立したので、折半出資で「デュポン・テイト&ライル」を設立した。2000年にパイロットプラントを建設し、経済性を確認、年産45,000トンの商業プラントを建設、2006年11月に操業を開始した。
 デュポンはPTTを米国で生産しているが、中国のグローリー社にPTTの製造技術を供与、2006年、年産30,000トンの連続重合設備が完成した。原料のPDOはデュポンが供給している。
 

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  表1 デュポングループのPDO,PTT生産能力  (単位:トン)
    出典:化学工業日報2007.9.25などより作成


 PTTは繊維用途で発展しており、この用途が90%を占めているが、デュポンはPDOを導入したエラストマー、機能性樹脂の開発も活発である。
 2007年秋、Bio―PDOTMを使用した熱可塑性ポリエステルエラストマー(TREE)を開発した。
 デュポンはTREEの世界的なリーディングカンパニーでハイトレルⓇのブランドで販売、日本では東レとの合弁会社、東レ・デュポンが生産している。日本のTREEの市場規模は約12,000トン、東レ・デュポンと東洋紡の2社が90%近いシェアを占め、両社は拮抗している。
 
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    図1 TREEのシェア


 これまでTREEはすべて石油由来の原料だったがデュポンはソフトセグメントにPDOを使用したタイプを開発し、ハイトレルⓇRSのブランドでサンプル出荷を開始した。
 日本ではまだ販売されていないが、米国の販売が軌道に乗れば日本でも販売および生産を行うものと予想される。
 ポリウレタン分野でもPDOの応用研究が活発で応用特許の出願件数が増加している。まだ実用化されていないが、近い将来、1,4-ブタンジオールなど他の鎖延長剤用を置き換える可能性がある。
 デュポンは産業資材、エネルギー両分野で石油代替の事業を拡大しており、産業資材分野の柱はPDOだが、PDO以外の植物由来原料を使用した新製品を相次いで開発している。

 三井化学ポリウレタン バイオ由来のポリウレタン開発

 旧来からある化学品の一方の成分を植物由来の原料に置き換えた新製品の開発はデュポンに限らず活発だ。
 ポリウレタンもその一つである。ポリウレタンはポリオールとイソシアネートを混合・反応して製造される。ポリオールの一種である、ポリエステルポリオール(PEP)は脂肪族二塩基酸と脂肪族グリコールの縮合反応によって得られる脂肪族系と芳香族二塩基酸と脂肪族グリコールによって得られる芳香族系がある。二塩基酸の主力は石油由来のアジピン酸だが植物由来のひまし油系やその誘導品であるセバシン酸系があるが、最近まで植物由来とは強調されなかった。
 PEPの国内市場規模は年間約36,000トン。大日本インキ化学がトップメーカーで1/3のシェア、これに花王、日本ポリウレタン、三井化学ポリウレタンなどが続いている。
 アジペート系が90%、植物由来であるセバシン酸系が5%、その他が5%と推定される。セバシン酸系PEPは大日本インキ化学、三井化学ポリウレタン、クラレなどのウレタン原料メーカーとセバシン酸のサプライヤーである小倉合成、豊国製油、伊藤製油などが生産している。
 2007年10月、三井化学ポリウレタンはひまし油を精製、100%植物由来のポリオールを開発した。低反発の軟質ウレタンフォームや硬質ウレタンフォーム用など、早期の事業化を目指すと発表した。同社は2008年1月に作成した中期経営計画で革新的な新技術・方向性として、植物由来ポリウレタンとバイオオレフィン類を掲げている。
 植物由来のポリオールを使用した軟質フォームは最大70%まで非石油由来が可能でマットレス、座席シートなどの用途に使用出来る。硬質フォームは軟質フォームほどではないが、石油由来の原料を30%非石油系に出来る。
 ひまし油系ポリオールは古くから伊藤製油、豊国製油など植物油メーカーが上市している。用途は接着剤、塗料など非フォーム用が中心で、ウレタンフォームには需要がなかったので市場規模は小さい。ひまし油が出発原料であるセバシン酸系PEPの用途もウレタン系塗料、接着剤が中心でフォームの需要は無かった。
 ウレタン業界のリーディングカンパニーである三井化学のフォーム用植物由来ポリオールが軌道に乗ればウレタン業界の構造が大きく変わる可能性がある。
 ひまし油は国産が中心だったが1980年代後半に輸入が増加し、1990年代央以降輸入品が大部分占めている。1990年代初頭までタイ、中国、ブラジルなどの輸入があったが1995年以降インド品が大部分を占め現在に至っている。
 

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        図2 ひまし油の輸入推移


 ひまし油は植物由来の化学品原料として発展する可能性が高い。このような経緯からひまし油誘導品の大手メーカーである伊藤製油は安定的な原料確保のため2008年3月、インドのひまし油および関連製品大手、ジャヤント・アグロオーガニクス(JAOL)社の株式を5%取得した。インドは70%近い世界の生産シェアでJAOLは同国の大手メーカーであることから、最も有力な原料ソースである。 

 三井物産 インドにセバシン酸メーカーを合弁で設立 2009年年産8,000トンプラント稼働へ

 ひまし油誘導品であるセバシン酸も供給側に大きな動きがあった。
 2007年12月、三井物産はひまし油の最大メーカーで世界シェア35%を持つインドのジャイアント・アグロと合弁会社を設立し、セバシン酸の生産を開始すると発表した。セバシン酸は後述するように、現在は中国の輸入品が大部分で、三井物産はメーカー輸入を除くと最も高いシェアを持っている。
 新会社は年産8,000トンのプラントからスタートするが、供給が拡大すれば順次増強する予定である。現在中国から輸入しているセバシン酸を三井化学ポリウレタンのPEP向けにも供給していると予想され、先に述べた同社の新規開発中のひまし油系PEPと接点も考えられ興味深い。

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   表2 合弁会社の概要 (出典:化学工業日報2007.12.)


 
 ひまし油および誘導品を中心に販売している中堅商社KFトレーディングの取り引き先がインドにセバシン酸のプラント建設に入ったので、日本およびアジアで販売の準備を開始している。植物由来の化学原料は日本国内では供給確保、コスト高などで難点が多いので海外企業との提携が今後も拡大することが予想される。

 セバシン酸は1980年代まで国産が中心で、小倉合成、豊国精油が供給してきた。1990年代に輸入が増加し、2007年は80%台に達している。輸入先はほぼ全量中国である。2005年後半に大手メーカーが環境問題で操業を中止したので2006年は輸入量が減少したが2007年は他メーカーが増産したので前年比約30%増となった。
 セバシン酸の輸入は現在、全量中国品だが、合弁会社の新設プラントが稼動する2009年後半からインド品の輸入が始まる見通しだ。

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     図3 セバシン酸の供給推移


 
 将来性豊かな植物由来原料~セバシン酸
 
 セバシン酸の需要量は2007年、約7,300トンでこの数年微増で推移している。石油由来の原料と置き換える用途はポリエステルポリオール(PEP)類とナイロン610がある.PEPは1,200トン、セバシン酸需要の16%を占め、前述のように塗料、接着剤を中心とするウレタン原料に消費されている。インドからの輸入が本格化すれば大きくフォーム用などにも採用され、需要が拡大すると予測される。
 ナイロン610は東レ1社が生産しており、市場規模はアジピン酸系のナイロン66と比較すると極めて小さいが、セバシン酸需要の10% を占めている。東レが重点開発の対象としており、今後需要拡大が期待される。詳細は不明だが、東レ以外のメーカーでもセバシン酸を利用した機能性樹脂の開発が今後活発化すると見られる。
 セバシン酸の最も需要が多い用途はエステル類で40%以上を占めている。エステル類はDOS,DBSなど多種類あるが、この内約半分が可塑剤、他の半分が潤滑油、絶縁油などである。DBSは塩化ビニリデンの可塑剤中心で需要は安定しているが、DOSなど他のエステル類は塩ビ用が中心で需要は低迷している。将来、ウレタン用のPEPがセバシン酸の需要を牽引すると予想される。
 
 
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  図4 セバシン酸の需要構成(2007年)


 
 脂肪族二塩基酸にはセバシン酸以外に多数あるがアジピン酸が最も市場規模は大きい。
 2007年の市場規模は167,000トンで、ナイロン66が66%、ポリエーテルポリオール22%、可塑剤6%でこの3分野で90%を上回っている。
 ナイロン66は旭化成がアジピン酸から一貫生産しており群を抜いたシェアを持っている。ナイロン610はヘキサメチレンジアミンとセバシン酸の縮重合だが、ナイロン66はセバシン酸がアジピン酸に代わっただけで、基本的な技術は共通である。
 ポリエステルポリオールは先に述べたように塗料、接着剤用のウレタンが中心用途で、可塑剤は塩ビ用が中心である。
 セバシン酸はアジピン酸の1/20以下の市場規模だが、アジピン酸と共通する用途が多い。
  
 
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  表3 アジピン酸の市場規模(2007年)(単位:トン)
    (出典:筆者推定)


 
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   図5 アジピン酸の需要構成(2007年)


 アジピン酸は石油由来なのでセバシン酸に比較すると価格が安い。輸入価格は2007年はセバシン酸が280円/kgに対し、アジピン酸は196円/kgで80円以上の差がある。
 原油の高騰から2005年以降アジピン酸が値上がりしたのに対し、セバシン酸は国産から輸入に転換し輸入量が大幅に増加したので価格は低下した。植物由来原料と石油由来原料の価格差は縮小傾向にある。
 
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表4 ひまし油、セバシン酸アジピン酸の輸入価格(単位:円/kg) 出典:貿易月表より作成
  注)セバシン酸は中国の輸入量、輸入金額から算出、他は合計から算出


 
 参考文献

 「環境と中国の視点からみた化学品の需給構造変化「工業材料」2004年7月号p6~11
 「発展期を迎えたPTT繊維」「工業材料」2004年7月号p5~8
 「市場拡大が期待されるPTT」「工業材料」2002年6月号 p5~8
 「2004年版ポリエステル樹脂総合分析」シーエムシー・リサーチ2004年9月刊
 
     ㈱シーエムシー・リサーチ 代表取締役
        須藤正夫(すどう まさお)