化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社)2008年10月号に掲載

                          ㈱シーエムシー・リサーチ 取締役
                             荒牧 清
 

 
 ◆ 放熱対策が機器の基本設計に
 
 電子機器の高密度化・薄型化が急速に進み,ICやパワー部品から発生する熱の影響がこれまで以上に深刻になっている。従来の電子機器における放熱対策は,機器開発のフェーズが進んでから最終段階で力づくで解決することが少なくなかった。しかし,こうした手法では,変化に対応できなくなってきている。
 最近の各種機器の小型化・高性能化が発熱量の増加をもたらしており,熱をいかに効率良く移動し排熱させるかは,開発初期の基本設計のテーマになってきている。
 
 ◆ モバイル機器の放熱シートの採用が拡大
 
 機器の小型化,薄型化に対応した放熱対策の部材として放熱シートの活用場面が広がっている。従来,ノートPCやプロジェクタ等のモバイル機器では,CPU等の熱源で発生した熱により局所的に大きな温度上昇(ヒートスポット)が発生するので,十分な放熱スペースが無いときは,ヒートパイプ等を使用し,スペースが取れる場所まで熱を移動させ,放熱させるという手段がとられていた。しかしこのような手段では,筐体の薄型化,加工形状の制限,軽量化などの課題に対応できなくなり,より熱伝導性が高く,薄く軽量という特徴を持つ放熱シートの要求が強まっている。
 携帯電話をはじめ各種モバイル機器は,ますます小型化・薄型化の競争が展開されており,この他に今後,高輝度LEDが照明やバックライトの光源における熱対策など,放熱シートの必要とされる場面はますます増えてくるものと思われる。
 
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     表1 放熱シートの素材と特長

  
 ◆ モバイル機器で素材に変化が生まれている
 
 2007年における放熱シートの国内メーカーの市場規模は,210億円程度と推定される。ここ数年でみると市場は5%の増加率で安定成長をしており,今後はこの成長率がさらに高くなることが予想される。
 放熱シートの素材はシリコーンが圧倒的に多く,市場の約80%のシェアを占めている。その他の素材は,アクリルやグラファイトなどが有力な素材となっているが,アクリル系はシリコーン系の欠点といわれるシロキサン対策が不要であることを,最大の特長としているものの,シリコーン系がこの問題に取り組んで改良してきたことで伸び悩んでいる。
 この4年間の新しい動きでは,グラファイト系の販売金額が2倍となり需要が伸びている。これはグラファイトシートが,熱を横方向に逃がす特性があるため,機器の薄型化からくるヒートスポット対策などに有効ということで,ノートPCや携帯電話などの放熱対策で採用が増えてきたことが要因である。
 放熱シートの世界市場でみると約350~400億円規模と推定される。このうち日本国内の比重が高く全体の約50%を占めている。その他の地域では,電子機器の生産状況を反映して中国,台湾,韓国などアジア地域が約40%を占め,ヨーロッパや,米国でのシェアは少なく約10%程度と推定される。
 
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      表2 放熱シートの市場規模

  
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    図1 放熱シートの市場推移

  
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     図2 素材別需要構成

     
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表3 放熱シートの用途別需要構成(2007年)

    (単位:百万円,%)


 
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図3 放熱シートの用途別需要構成


 
 用途別で需要量が多いのはPCのCPUで,放熱シートの需要の30%以上がこの用途向けである。PCのマザーボードは,台湾メーカーが台湾および中国で生産し,完成品を現地(販売地域)で組み立てる流通構造である。PCの放熱対策は,フィン,パイプ,ファン,シート,グリース等を組み合わせて設計されているが,ノートPCは放熱スペースの制約から各種放熱シートの採用が多くなっている。最近は,激しい性能競争の中で,機器の小型化・高性能化とCPUの高発熱化が同時に進み,放熱シートへの要求も,熱伝導率が高く,より薄く柔らかい材質のものが要求されるようになり,また放熱機能だけでなく緩衝,電磁波防止,絶縁といった複合機能の要求が増える傾向がみられる。
 用途別で2番目に需要が多いのは電源モジュール用途で,国内紙所の約30%を占めている。電源・パワーデバイス分野における放熱シートは,スイッチング電源,DC-DCコンバータ,パワートランジスタ,その他,半導体応用機器類の放熱,絶縁材料などに使用されている。放熱対策に対するニーズは古くからあり,放熱シートのベースはシリコーンゴムなどの硬いタイプが多く使用されている。最近は,デジタル家電の高性能化や小型化でスイッチング電源向けの放熱シートの需要が拡大している。また最近は,自動車業界などがパワーエレクトロニクス化時代に入ってきており,自動車用電源モジュールなどで高温環境における部品材料の信頼性,耐久性が求められている。その中で,従来の放熱グリースからペースト状のゲル製品への切り替えの動きなども起きており,放熱シートの有望市場とみられている。
 光ピックアップ用途は,パソコンをはじめDVDや次世代DVD,カーナビなど製品の用途が広く放熱シート需要の13%を占め有力な用途となっている。
 光ピックアップは,レーザー光の位置調整が必要なため,放熱材料も柔らかい材料が求められている。ゲル状のシリコーン系が多いがグラファイト系シートも採用されている。
 携帯電話端末機の放熱対策は,ベースバンドIC・LSI,システム熱源,パワーアンプなどである。従来は,継続して使用する時間が短いため放熱が問題となることはなかったが,機器の小型化,薄型化,高密度化によるヒートスポット対策が課題となり,最近は放熱シート(グラファイト系が多い)の採用が増えている。モバイル機器の全般にも同様の放熱対策が必要とされるため,今後,グラファイトシートの市場拡大が見込まれる。
 
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   表4 放熱シートの用途


 
 ◆ メーカー動向と国内シェア
 
<シリコーンメーカーの動向>
 
 放熱シートの素材はシリコーン樹脂を使用した製品が圧倒的に多く,シリコーンメーカーに強みがあるが,市場では電子機器の設計に対応させたいわゆるユーザースペックの素材が求められており,素材の供給方法においてメーカーからユーザーへの営業展開に違いがみられる。
 放熱シートに強いのは信越化学の子会社である信越シリコーンで,放熱用ゴム製品をはじめ機器メーカーが同社製品を標準品に推奨するなど有利なポジションで事業展開している。電源用途はグリースとの相乗効果で強みを発揮している。ゲル状製品やボリュームの小さい用途は,シート加工メーカーに,材料シリコーンを供給しサポートしている。またユーザースペックに対応した製品開発など,技術サポートも強みとしている。
 東レ・ダウコーニングは,系列の加工メーカーとして富士高分子工業があり,専業の子会社がユーザーニーズにきめ細かく対応する体制でシェアを一定の確保している。
 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズは,放熱シートのシェア争いには参入せず,放熱グリースに注力した展開となっている。
 シリコーン系放熱シート市場は,材料および加工メーカーが20~30社程度参入しているが,電気化学工業,ポリマテック,タイカ,古河電気工業,住友3M,日立化成工業,日東シンコーなどが主要メーカーである。
 シリコーン素材にフィラーを練りこむだけの二次加工技術があれば製品化が可能なため,参入企業が多くなっているが,市場で一定のシェアを確保するためには,熱設計を含めたソリューションの提供や,ユーザーニーズに対応できる開発体制などが求められ,競合も厳しさを増してきている。
 
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  表5 シリコーン放熱シートのメーカーと製品


 
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図4 放熱シートメーカーシェア


<グラファアイトシートメーカーの動向>

 グラファイトシートは,ここ2~3年の間に携帯電話端末機で採用が広がってきた。携帯電話に限らずモバイル機器全体がより薄さと軽さに開発の重点を置いてきたことで,ヒートスポット対策が重要となっている。グラファイトシートの放熱機能がこの用途に適していたことで採用が広がっている。
 主要メーカーは,パナソニックエレクトロデバイスであるが,同社はグループ会社が携帯電話端末機を製造し,その他放熱対策を必要とする製品分野も多く,有利な条件が活かされている。大塚電機が米国グラフテック社の製品を輸入販売しているが,同社はグラファイトシートの有用性に早くから着目し,市場開拓に取り組んできた。
 グラファイト系の参入メーカーは,パナソニック・エレクトロニック・デバイス,大塚電機,大成ラミネーター,タイカ,東洋炭素,北川工業,TYKなどで,今後の需要拡大に向けた製造・販売体制の構築に取り組んでいる。
 

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  表6 グラファイトシートメーカーと製品


 
 ◆ 今後はLED分野で市場拡大

 LEDの輝度は素子の温度上昇に伴って低下する。そのため輝度を保つにはパッケージ基板の放熱効果がカギになる。LEDが期待されている照明市場(光源用),車載市場,液晶テレビ,液晶モニタ用バックライト,スキャナ装置(光源用),デジタルカメラ用ストロボ(光源用)などでは,高熱伝導板だけでは不十分で基板周辺にも放熱材料が必要とされ,そこに放熱シートの市場が拡大するものと思われる。
 

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   表7 LEDの主な用途


 
 パソコン用液晶モニタでは,2010年にはLEDバックライトの採用が本格化するとみられる。液晶テレビでも冷陰極管に変わってバックライトのLED化が進むことが予想され,これらの放熱対策が必要とされる場面が増えてくる見通しである。また,屋外広告用の大型LED看板には,設置場所やスペースの関係で,薄型化,軽量化が求められ放熱対策が課題となる場面が増えてくる。このほか自動車分野では,カーナビやLEDランプの熱を放出対策などが課題となるなど,LEDの応用製品の拡大とともに放熱シートの市場も成長することが予想される。
 
     ㈱シーエムシー・リサーチ 取締役
        荒牧 清(あらまき きよし)