化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社)2016年2月号に掲載

                     和多田史郎* ㈱シーエムシー・リサーチ
 
                 *わただ しろう:出版マネージャー
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シリコーンの種類と用途

 シリコーンは、ケイ素と酸素からなるシロキサン結合(Si-O-Si)を骨格とし、そのケイ素にメチル基を主体とする有機基が結舎した高分子化合物で、一般的にはモノマーを含めた有機ケイ素化合物の総称として呼ばれている。天然には存在しない人工の高分子で、耐熱性、耐寒性、耐候性、援木性、離塑性、電気絶縁性、化学的安定性といった多様な性能をもつうえ、形状もゴム状をはじめ、オイル、エマルジョン、レジン、ワニス、パウダなどがあり多岐用途に使用されている(表1)。
 
 
              表1 シリコーンの性状と応用分野table1
 
 
 応用分野は食品、繊維、化粧品、電子・電気、自動車、建築、航空機、医療、ロケット・宇宙開発など幅広い分野でその特性が生かされている。身近なところでは携帯電話のキーパッド、哺乳ビンの乳首、ソフトコンタクトレンズの成分、ビールビンコーティング剤、防水スプレー、浴槽の目張り剤、歯科用の型取り剤、自動車エンジンルーム部品、床ワックス、LED素子封止などに利用されている。

シリコーンの市場規模

 シリコーンの国内市場はここ数年伸び悩み傾向が続いているが、多くの産業分野でシリコーンの機能を必要とする用途があり、特に電子・電気、車両・輸送機器、化粧品分野での成長に支えられ、2014年は国内出荷額で5.3%、輸出額は5.9%の増加に転じている(表2表3)。
 
 
               表2 市場規模の推移(国内市場)table2
 
            表3 製品別国内出荷額推移(2012~2014年)table3
 
 
 世界のシリコーン市場は毎年5%程度の伸長が続いており、アジア地域は40%程度のシェアを占めている。そのうち20%程度を中国が占め、日本のシェアは15%以上と推定される。中国の市場規模はここ10年間で50%程度成長しており、今後も世界市場の成長をけん引していくと見られる。

応用分野別市場規模

 国内出荷べースで見ると国内生産および輸入品のトータル売上高は、2013年は1,511億円、2014年は1,591億円規模と見られる。長引く不況で、ンリコーン各種の製品は適材適所で堅実な需要を維持しているが、現状の売上高を維持するには背景に価格競争あるいは、他材料との競合関係をクリアする努力が必要である。
 主な応用分野別に見た市場の概要は以下のとおりである(表4)。
 
 
              表4 シリコーンの産業分野別国内需要量table4
 
 
1. 建築・土木
 シリコーンは、ガラスやコンクリートへの接着性がよく、耐候性に優れることから、シーリング材に多用され需要量も多い。内外装向けに押出し成形のガスケットタイプと施工時にぺースト状で、施エ後にゴム状となるタイプが使用されている。外装では、部材との接着性に優れていることから、建物の機密性や雨水の進入を防ぐ目的で、また内装では、水回りやドアパッキン、クリーンルームなどの用途で、透明性、難燃性、防かび性、有機ガス発生低減といった機能をもつ製品が供給されている。

2. 電気・電子・OA機器
 シリコーンの、絶縁性、耐熱性に優れ、誘電率も低いといった特性から、エレクトロニクス分野での採用が拡大している。電子機器の小型化、軽量化の進展で基板へのコーティング、熱対策などの用途での利用が多いが、最近は、発光ダイオード(LED)のレンズ用素材や封止材料、キヤスティングモールド、ダイボンディング材への採用が増えている。
 熱対策用途では、電子機器の高集積化、箇体の小型・薄型化が進展する中で、シリコーン放熱材料がグリースやシートなどの形態で供給され、アジア市場を中心に需要が拡大している。

3. 車両・輸送機器
 シリコーンは、温度差の激しい過酷な条件下でも特性が損なわれないため、自動車の電子部品用ボンディング封止材、ゴム部品、特殊潤滑油などで採用が増えている。
 乗用車メーカーは、軽量化やデザイン性などのメリットがある素材であるとして、樹脂の使用比率を高めている。現在、樹脂の使用量は車1台当たり重量で約13%、このうちシリコーンの使用量は、300~500部品で1台当たり約0.3%と言われている。今後、さらに樹脂の使用量の増加が予想されている。

4. 化粧品
 シリコーンは、口紅やファンデーションなどメイクアップ製品、シャンプー・リンスなどへアケア製品、化粧水や日焼け止めクリームなどスキンケア製品などに配合されている。安全性も高く、化粧品に配舎することで援木性、安定性、伸びのよさ、なめらかさ、つややかさ、使用感の向上などの性質を付与できるため、多くの製品口に採用されている。

国内のシリコーンメーカー

 国内シリコーンメーカーは、信越化学工業、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(以下、モメンティブ)、東レ・ダウコーニングの3社が有カメーカーであり、シェアの大半を占めている。これに次いで旭化成ワッカーシリコーン(以下、旭化成ワッカー)、ソルベイジヤパン(旧ローディアジャパン)、JNC(チッソグループ)、エボニックジャパンなどが市場参入しているが、国内シリコーン市場全体の市場占有率は上位3社が95%以上を占める市場構成となっている。
 原料モノマ一(粗シラン/シロキサン)から一貫生産を行っているのは信越化学工業とモメンティブの2社のみで、2社以外は原料モノマーを輸入して各種シリコーン製品を生産している。なお、東レ・ダウコーニングは2001年4月に千葉工場のモノマ一生産を停止して以来、国際競争力に優れるダウ・コーニングの米国、英国エ場からの輸入に切り替えている。
 これまでの業界再編により、GE東芝シリコーンの全株が2006年にGEアドバンス・マテリアルに売卸され合弁を解消した。その後、GEが投資ファンドのApollo Management LPに全株を譲渡し、GE東芝シリコーンは2007年1月にモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパンに社名が変更された。
 東レ・ダウコーニングは、東レ・ダウコーニング・シリコーンとダウコーニングアジアの事業統合で、新社名を東レ・ダウコーニングに変更し、2005年4月より統合会社として営業を行っている。持株比率は、ダウコーニング・ホールディング・ジャパン65%、東レ35%である。なお同社は、2004年に日本ユニカーのシリコーン事業を買収により取得しており、付加価値の高いシランカップリング剤製品で優位なポジションに立っている。
 新規参入としては、シリコーン製LED封止材に2011年に三菱化学が、2012年にダイセルがそれぞれ参入している。LEDはここ数年、一般照明や液晶パネルのバックライトなど高出力・高輝度タイプの需要が拡大し、耐熱性でエポキシ樹脂に勝るシリコーンの需要が高まっており、新規参入が活発化している(表5)。
 
 
             表5 国内シリコーンメーカーの生産能力table5
 
 
シリコーンメーカーの海外展開

 シリコーンメーカー各社ともシリコーン市場の拡大しているアジア圏のうち、特に中国市場を中心に大型生産拠点の充実を図っている。
 国内トップメーカーの信越化学工業は、国内の磯辺工場、松井田工場の2工場でシロキサンを生産し、製品各種を直江津工場、武生エ場で生産するほか、グループ企業の信越ポリマー、シリコーンモールド、埼玉シリコーンモールドなどを活用しながら、また海外でも米国、欧州、中国、台湾、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドなどでシリコーン製品および成形加工品を供給する体制の強化・充実を図ってきた。
 信越化学工業とGE(現・モメンティブ)が2001年にタイに設立したモノマ一製造合弁会社であるアジアシリコーンモノマーは、2013年5月に信越化学工業が約150億円をかけGE保有株式を全量買い取り完全子会社化し、2015年3月には約200億円を投資した増強計画を発表している。この増設計画により、シリコーンモノマーの生産能力を現在の年産7万トンから10万5千トンヘ5割増やし、シリコーンポリマーの生産能力を年産5万4千トンから7万4千トンヘ約4割増やす。増設工事は2017年に完了予定で、信越化学工業はアジアシリコーンモノマーと最終製品を製造・販売するシリコーンズ・タイランドとを一体化させることで、タイでのシリコーン事業の運営の効率化を図り、アジア地域においてさらなる事業の拡大を目指している。
 また、信越化学工業は中国での需要拡大と今後の高い成長性から、成形用シリコーンゴムなどゴム系製品の製造拠点として信越有机硅(南通)有限公司を設立し、2013年から年産は2万5千トン規模で操業を開始している。この新工場建設による投資金額は約85億円で、同社にとって中国では初の大型投資となっている。また今後は順次製品群を拡大し、最終的にはすべての製品群の製造を行う予定で、さらに将来的には研究開発拠点の設置も視野に入れている。
 モメンティブは、国内の太田工場でシロキサンから製品までの一貫生産を行うほか、中国では新安札工集団51%、モメンティブ49%の合弁で浙江新安邁図有機硅を設立し、粗メチルク口口シラン換算で約10万トンの生産体制を有している。ほかでは南通市に年産2万トンのシリコーン製品製造拠点も保有し、将来有望な中国市場およびアジア地域をターゲットとした事業展開を図っている。
 東レ・ダウコーニングは、シロキサン輸入により国内では千葉工場、山北工場、福井エ場、小松工場の4工場で製品の生産を行うとともに、海外では中国・上海では東レとダウコーニングとの合弁工場が、江蘇省張家港では2010年からダウコ一ニングとフッカーケミーの合弁でシリコーン製品工場が操業し、アジア地域での拡販体制を整えている。
 シリコーン業界で優位にある信越化学工業は、系列傘下に有力な信越ポリマーを抱えており、グループ会社が自社原料の消化にも大きく寄与している。同様に東レ・ダウコーニングも傘下に富士高分子工業があり、独自に国際レベルで製品、加工品などを展開していることを強みとしている。
 そのほか、1979年よりカネカが自社技術による変性シリコーンポリマー(シーリング材および弾性接着剤のべースポリマ一)の生産を行い、国内および海外ではべルギーと米国にエ場を建設し国際レベルの展開を図っている(表6)。
 
 
               表6 シリコーンメーカーのアジア拠点table6
 
参考文献
「2015シリコーン・応用製品の市場実態と展望」(シーエムシーリサーチ、2015年6月刊)