化学品の市場調査、研究開発の支援、マーケット情報の出版

「工業材料」(日刊工業新聞社)2016年1月号に掲載

                     吉田優香* ㈱シーエムシー・リサーチ
 
                 *よしだ ゆうか:取締役 調査・コンサルタント
                  〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2-7 東和錦町ビル
                  電話 03-3293-7053

はじめに

 2014年12月にトヨタ自動車が燃料電池車(FCV)の市販を開始した。それと連動して、国内における商用水素ステーション設置が本格化している。「花とみつばち」の例えのとおり、燃料電池の普及には水素ステーションの整備、拡充が不可欠である。
 表1は、2014年度補正予算および2015年度予算が確定している水素・燃料電池関連の予算である。表のとおり、2014年度以前からの予算項目もあるが、2014年度補正予算および2015年度からの新規予算としてかなりの予算がついている。FCVおよび水素ステーションに直接に関係があるものは、●をつけたものである。水素ステーション整備には、2014年度の補正予算として96億円弱の予算がついた。△は、FCVのみでなく、電気自動車やプラグインハイブリッド向けを含むものであるが、車種別の補助金額は「ミライ」が圧倒的に高く条件を満たせは202万円の補助がつく。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでの第一段階の整備を目標に、政府が予算をつけることでスタートダッシュを目指す。
 
 
           表1 水素・燃料電池関連予算(2014~2015年度)
table1
 
 本稿では、水素ステーションに関する規制見直しおよび設置状況、今後の展望を中心に述べる。

規制見直しの動向

 前述のとおり、FCVの普及には、「花とみつばち」の例えもあるように、水素ステーションの速やかな整備、拡充が不可欠である。そのためには、安全性を担保しつつ、整備のコスト低減を図る必要があり、国による包括的な規制の見直しが実施されている。
 商用規模の水素ステーション建設には、約6億円かかると言われていた。目標のコストは商用規模で2億円以下である。同一の水素供給能力の水素ステーションに条件を揃えた場合でも、日本は欧州より1.5億円程度高いとの試算がある。欧州では汎用材を使用しているのに、日本では特殊な材料を用いる必要がある場合があるので、コスト低減には国内規制の見直しが必須であると言われてきた(例えば蓄圧機、ディスペンサ一)(表2)。
 
 
         表2 水素ステーションの構成機器に関する日本と欧州の比較
              ※水素供給能力を340Nm3/hに揃えた場合

table2
 
 2010年末には、規制見直しにかかわる工程表が関係省庁間で共同して作成され、NEDOの事業を活用し見直しが行われた。すでに、水素ステーションの設置に関する基本的な規制の整備は終了し、現在の残りを検討中・整備中であり、最新成果が近々公表されるようである(2015年11月現在)(図1)。
 
 
fig1             図1 水素ステーションの整備にかかわる規制見直し
 
 
 なお、建設・運営コスト削減、都心部での普及のためにさらなる規制緩和が業界団体である燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)から求められている(表3図2)。
 
                表3 さらなる規制緩和要望項目
table3
 
fig2      図2 水素スタンド(水素ステーション)とガソリンスタンドのレイアウト例

 
 水素ステーションの設置に関しては、高圧ガス保安法、建築基準法、消防法などの規制見直しで、見直し以前よりはかなり水素ステーションの設置が容易になり、後述のとおり四大都市圏を中心とする水素ステーションの設置が進められている。しかし、補助金不要な自立的な商業展開には、建設コストや運営費の半減が必要であり、さらなる規制緩和が求められる。
 さらに、2015年9月にはNEDOが、水素ステーンョンの普及拡大に向けて、設置・運用における規制の見直しやコストの削減に向けた新たな研究開発に着手すると発表した。液化水素ポンプ設置にかかわるデータの取得や新方式の複合圧力容器蓄圧器の技術開発など7つのテーマに取組み、水素ステーションのさらなる普及拡大を目指す。

水素ステーションの設置状況

 国内における商用水素ステーション設置は、FCVの市販と連動して、「エネルギ一基本計画」における目標(2015年内に100カ所程度)をべースに進められている。燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が公開している資料によれば、2015年10月末現在で営業中の水素ステーションは、計28力所であり、そのうち19力所がオフサイトタイプのものである。営業中のものに2015年度未(2016年3月)までに計画中のものを合わせた水素ステーションの数は81力所で、規制緩和が進み、現在計画中のものには移動式の割合が高い。広い土地を得にくい四大都市圏の中心部で、比較的低コストで設置できるものとして整備がすすんでいる。オンサイトは、その場で水素の製造が可能なものであり、JX日銃口石工ネルギーの岡崎市、名古屋市のものや東京ガスの浦和ステーション(仮称、計画中)などがある(表4)。
 
 
           表4 商用水素ステーションの種類別設置状況
             (2015年10月27日現在)
table4
 
 
 企業別、タイプ別の状況に整理しなおしたものが表5である。水素ステーションの設置に参入しているのは、大別すると、①JX日鉱日石エネルギーのような、石油元売りでガソリンスタンド(サービスステーション)網をもち、LPGの輸人事業にもかかわっている企業、②東京ガスや大阪ガスなどのいわゆる都市ガス供給業者、③岩谷産業のような産業ガス供給業者、④トヨタ系の豊通を中心とした商社と産業ガス会社(太陽日酸、エアリキッド)の合弁である。
 
 
           表5 商用ステーションの企業別・種類別補助金状況
             (2015年7月1日現在)
table5
 
 石油元売り系(①)は、「車へのサービス」という観点では圧倒的な販売網とノウハウをもつ。さらに、エネルギー供給企業としての各種の原料をもち、輸送・供給の設備・技術およびノウハウも有する。
 いわゆる都市ガス会社(②)は、家庭用の据え置き型燃料電池「エネファーム」の市場役人で先行した。また「都市ガス網」を有することから、オンサイトでの水素生産能力をもつ水素ステーションの投入が可能である。
 産業用ガス供給業者(③)は、長年水素の製造・供給を行っており水素の取り扱いそのものに強みがある。岩谷産業は国内唯一の液体水素メーカ一である。
 豊通を中心とした合弁(④)は、トヨタおよび商社の販売ネットワークの活用と産業用ガス会社の技術を活用できる。

今後の展望

 現在積極的に水素ステーション整備を進めている企業は、前述の2011年1月に発表された民間専業者による共同声明に参画した企業が中心であり、エネルギ一企業やトヨタ自動車などの自動車メーカーなど、水素関連19社・団体で構成される「水素供給・利用技術研究組合(HySUT)Jのメンバ一企業である。
 2015年5月に、JX日銀日石エネルギー、岩谷産業、東京ガスなどの水素ステーション運営会社は、水素ステーションの運営で連携すると発表した。各社のマニュアルや不具合情報を共有して、効率的な施設運営や設備の簡略化につなげる。「水素供給・利用技術研究組合」が共用の情報システムの構築を行った。FCVに使用する水素の価格は、ガソリン車の燃料代の2倍、ハイブリッド車の3倍近いと言われるが、JXエネ(l,000円/kg)や岩谷(1,100円/kg)は、採算度外視で小売りしているのが現状である。補助金などない状態で事業が成立するには、水素価格の6割強を占めるステーション設置・運営コストの削減が必須である。運営を連携し、情報を共有して分析することで、設備や部材の間題点を明確にして改善につなげる。さらに、高圧ガス保安法など、スタンド運営に関係する関連法規のさらなる見直しなどで政府に働きかける際にも活用できるとしている。
 さらに、2015年7月1日には、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業の3社は、FCV用水素ステーション整備の支援事業を開始すると発表した。FCV普及を目指すHySUTに対して資金提供などを実施、インフラ整備への協力を通じてFCVを利用しやすくする環境づくりを進めるのが目的だ。水素ステーション1基当たり年間1,100百円を上限に、経費の1/3を負担するとのこと。これには、HySUTに所属する水素ステーションを運営する企業の運営にかかる人件費や修繕費などが支援対象である。記者会見を行ったトヨタの伊勢清貴専務役員によれば、3社で2020年度までに総額50~60億円の支援を考えているとのことである。
 主に水素ステーション整備を行っている企業4社への取材2015年6月中に行ったが、今後の予定は、という質問に対しては、「今年度中には、計画したものについては進める」、という回答であり、来年度以降の予定は自動車業界の状況を見てという様子見のようでもあった。一部の地方自治体の支援もあり、また自動車3社による支援宣言で、徐々に来年度以降の2020年に向けた具体的な整備計画も進んでくるのではないかと考えられる。
 トヨタに続きホンダも2016年3月にFCVを本格に市場投入する。2015年10月30日~11月8日に開催された東京モーターショ一で市販予定車が展示され、秒読み段階にはいったと言える。ホンダの市場役人で、FCVおよび関連の市場はさらに活気づくであろう。デロイトトーマツコンサルティングの試算によれば、2020年までにFCVの国内市場が5万台に達するとのこと。さらに、同社は経済波及効果を7,700億円とする。試算どおりに市場が成長するには、水素ステーションの整備・拡充のみならず、コスト削減に結びつく規制緩和や技術革新も求められる。

参考文献
1)水素社会実現に向けた水素エネルギー技術とビジネス展望(シーエムシー・リサーチ)2015年9月30日発行
 

 
 
 
 
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